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◆=シリーズ= 米国型人事評価と日本への示唆 【第3回】 業績評価と成果行動インタビューの可能性 |
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面談が不可欠となる業績管理
業績管理というと、実績の進捗管理というニュアンスが強くなるが、人事マネジメントにおいて業績管理(パフォーマンス・マネジメント)とは、部下の職務行動をチェックし問題点を是正し、定期的に成果とともにそのプロセスを勘案し評定することである。そこでは、面談が重要な役割を占めよう。なぜなら、成果の背景にある本人の働きぶり(パフォーマンス)そのものを確認しないと適正な評価は難しくなってくるからである。本人がどれだけのことをやったのか、むしろこのことが社員の業績であって、成果(Result)そのものは業績(Performance)ではないとさえいえる。
成果は、これまでもみてきたように、たとえ社員が組織の期待する行動を十分に取っても、社員のコントロールしようのない要因で決まってしまう。会社にとっては最終結果が確かに問題であるが、個人にとってはそうではない。このことは米国でも織り込んで業績評価を行っている。業績の評価は「ありのまま」ではなく、成果を中心にそこで何をやったのかを掘り下げて評価されるべきものである。
最近、バランスト・スコアカードが注目され、人事評価への展開が模索されている。米国で最も注目されているコンサルタントの一人、ブラウンは、業績評価のミステークのトップに、統制可能性の問題を指摘している(Brown “Keeping Score”)。
ところが、日本では、成果主義が強調されるなか、育成だけではなく、本人が何をやろうとも、結果が出なければその責任は本人にあり、会社には責任はないと考える風潮が強まってきている。権限委譲の名の下で、上司は部下に結果だけを問い、上司自身は責任転嫁をする。しかし、追及する上司もその上から「権限委譲」され、結果だけを厳しく問われる立場だったりする。このようなスタンスがひどく組織風土を荒廃させているが、原点に帰って考えれば当たり前のことであり、米国のテキストに沿って考えても、誤った人事管理というほかない。
業績を見詰めるスタンスも反省の対象となるが、何よりも業績評価を支援する技法として、行動インタビューに注目しないわけにはいかない。あえて日本語にすれば、「職務行動面談」ないし「成果行動面談」ということになるだろうか。筆者は、「成果行動インタビュー」と呼んでいる。
日本では、コーチングがブームになっている。出版物があふれかえっているが、そのほとんどは「ほめてやれ」とか「徹底的に話を聴いてやれ」といった従前からあるような内容である。どちらも大事なことだが、その後がない。目標面談でもやる気にさせるというモチベーションへの配慮が強すぎ、成果の背景を探るというスタンスが十分でなかった。
何も部下を尋問せよとか問い詰めて追及せよといっているのではないし、いうつもりもない。ただ、成果が生み出されたその背景行動を探っておかないと、指導育成のポイントも明らかにならないし、部下の適性を把握することも、次なる業績向上の糸口もつかめなくなってしまう。現場における指導育成の強化という観点からも、成果行動インタビューの技法が必要となってくるだろう。
行動インタビューの種類
行動インタビューという言葉が日本に登場したのは、コンピテンシーと同時である。
2001年12月になってようやくスペンサーの『コンピタンス・アット・ワーク』(“Competence at Work” 1993)が翻訳されたが、長らく英文だったこともあり、手近にその情報を得ることが困難だった。この本についてよく分からないまま絶賛したり、究極の評価ノウハウなどと思った結果が今の混迷に大きく影響している。
また、ある程度詳しく行動インタビューについて解説した記事もほとんどなく、拙稿の『コンピテンシー・マネジメントを成功させる行動インタビュー技法』(『人事マネジメント』2001年10月号所収)があるほかは、踏み込んだ情報はほとんどない。時折、コンサルタントによって行動インタビューが解説されることもあるにはあったが、コンサルティングを受けないとその理論的根拠すら開示されることがなかった。
スペンサーによると、コンピテンシーを作る手法であるBEIは、行動評価でも推奨でき、1人当たり90分でコンピテンシーのレーティングができるという。しかし、参照されている論文も60年代のものだけで、どれだけスペンサーが行動インタビューについて知見を持っているのか、疑問を持たざるを得ない。実際、行動インタビューが研究され、今日に影響を与えるものとして参考に挙げられているものは、90年代前半のものが多い。
さりとて、行動インタビューに寄せる期待はなお大きい。90年代後半以降の米国における研究成果はどうなっているのだろうか。
フェッツエル編の文献によると、選考に用いるインタビューには、①状況インタビュー(Situational Interview)、②職務関連インタビュー(Job-related Interview)、③心理的インタビュー(Psychological Interview)の三つがあるという(第7章)。ここには、非常に詳しくインタビューの方法が解説されている。
状況インタビューとは、状況を示しシナリオに沿って取ろうとする将来の行動を尋ねるものである。与えられた状況でどのような行動を取るか、その気になって考え出す能力に焦点を当てていく。これに対して、職務関連インタビューとは、過去の行動や経験に焦点を当てるものである。過去の行動/言動や、その領域において関連した経験は将来の行動を予測するという前提がある。前者が未来に、後者が過去に焦点を当てるという違いはあるが、類似性はある。構造化インタビューないしセミ構造化インタビューという用語もあるが、これら二つを合わせて示しているものといえる。
職務関連インタビューには、典型的行動記述方式(Janz 1982;1989)、経験準拠方式(Pulakos & Schumitt 1995)、構造化行動インタビュー方式(Motowidlo 1992)などがある。あえて分類すれば、スペンサーのBEIは、後者の職務関連インタビューの一類型に含まれるだろう。心理的インタビューとは、臨床心理の専門家によるもので、病理やパーソナリティ特性に焦点を当てるものである。
ラザムらの研究(Latham 1980;1989)によると、状況インタビューは、次のような手順で実施されていく。まず、クリティカルインシデンツメソッド(Flanagan 1954)によって職務分析を行い、出来事をクラスターとディメンションに仕分けする。次にクラスター/ディメンションごとに出来事を整理する。次に、出来事を「・・・のようなときあなたはどうしますか」という形式の質問に整理する。それに対して、どのような回答が得られたら、どのようなスコアにするかを検討し、パイロット調査を行う。結果はスコアごとに何段階かに分けておく。このようにしてマニュアルを完成し、インタビュー担当者のトレーニングを実施し、進めていくことになる。面接者は質問に対する応答を記録し、スコア別の出来事一覧と突き合わせてレーティングする。
なお、ここにクラスターやディメンションという言葉が出てくるが、基本的にコンピテンシーと同じと考えてよい。むしろ言動分類の基準としてはディメンションという用語のほうが一般的である。ディメンションとは、15ないし20ほどの標準的な組み合わせで、職務行動を記述する際の共通言語となるものである。コンピテンシーは、単体でも使われることが多く、それがあれば望ましい状態を示す職務行動の成功要因といってよい。個々に比較すれば似たようなものが並んでいる。
一方、職務関連インタビューの技法だが、その一つである構造化行動インタビュー方式(Motowidlo 1992)がある。基本的に状況インタビューとかなり類似しており、クリティカルインシデンツメソッドによる職務分析からスタートし、行動ディメンションに整理していく。質問は、「・・・ようなときのことを教えてください」「・・・のような状況であなたはどうしましたか」という形式に質問をまとめていく。回答は記録し、質問を標準化するが、裁量によって掘り下げ質問を行うものとする。行動アンカー方式で尺度を設定し評定する。このあたりも状況インタビューと同じである。ただ、掘り下げをどこまでやるのかは重要で、実際にあった出来事なら掘り下ーて聞くことで評定を一層助けることになる。しかし、状況インタビュー方式では掘り下げ自体がヒントになることもあり、また標準化の妨げとなってしまう。
なお、クリティカルインシデンツメソッド(「重要事象方式」高橋潔訳)とは、職務分析の簡便法の一種で、職務を成功させる要因にのみ焦点を当てた方法である。この技法は、コンピテンシーの創始者であるマクレランドも重視した手法であり(McClelland 1958;1973)、行動インタビューを短くするうえで重要な意義を持つ。
ところが、アーモッドは、クリティカルインシデンツメソッドはルーチン業務を無視するもので、単独で用いられることはないとしている。つまり、コンピテンシーは、もともと偏向した職務分析手法に基づくもので、採用選考など特定の目的においてのみ意義を持つものといえるかもしれない。コンピテンシー的なアプローチがナレッジワーカーには適しても、ルーチン的な業務の職務には適さないのも、ゆえあることといえるだろう。
日本企業ではどのように活用できるか
行動インタビューについての質問文例集や回答サンプルは、文献も多いし、オンラインサイト上にも存在しているが、いずれも英文である。それらは参考にはなるが、自社で展開する際は、一定のプロジェクトを組み、パイロット調査や担当者のトレーニングを一定期間徹底することが欠かせない。評価は、それ自体が的確であると同時に、評価結果が異なる評価者で相関性を持つことが重要である。その会社で多くの人が同傾向の評価をするなら、どんな評価をしていても、それ自体が意味あることだ。どんな評価をするかはもちろん重要なことだが、その傾向が共有化されなければ意味をなさない。
日本でも考課者研修があり、定期的に各社が実施している。行動インタビューの技法をそこに織り込めないかという要請も出てきている。しかし、行動インタビューの習得は、適性のある人がかなり本気で取り組まないと難しい。1日程度のトレーニングでも一定の効果はあるが、十分ではない。また受講した者がグループとなり、定期的に自社としての評定基準をすり合わせ、標準化/構造化しないと意味がない。
行動インタビューといえば、日本ではスペンサーのBEIである。スペンサーの技法は果たしてコンピテンシーを測れるものか、かなり疑問を持っている。その理由は幾つかあるが、徹底した過去への着目で、評定の標準化を困難にしている。私見では、将来の状況を尋ねるというス^ンスの状況インタビューのほうがはるかに標準化しやすいし、評定しやすい。少なくともあまり過去の出来事や経験に固執せずインタビューを実施するほうがよいだろう。さりとて、根拠のない決意表明は、アセスメントでは対象にしない。また成果に関する背景を確認していくなら過去の実際の出来事について掘り下げていくことがあくまでも基本である。
ブラウンは、過去中心ではなく、現在と未来を3点セットでバランスよく評価しないと、次なる業績につながらないとしている。筆者の指導事例では、「Did」と「Will-Do」で活動を切り分け、両方を記述してもらい、インタビューで補完している。
インタビューだけではなく、時間の節約のために、事前に記述してもらうことはインタビューを容易にする。また採用などでは状況記述方式で、コンピテンシーの評価がかなりできるという事例もある(拙著『転職心理作戦』参照)。
バイアムが提唱しているターゲットセレクションも外資系企業を中心に普及している。STARといわれるモデルで言動を整理し、状況(Situ-ation)、任務(Task-at-hand)、行動(Action)、結果(Result)に整理していくことで、過去の言動を評定する技法である。しかし、職務経験のない新卒採用では、ほとんど有効性はない。この技法も過去志向の手法である。
ところで、業績評価としてインタビューを実施する以上、対象者の業績に関する情報をなんらかの形で記述し、それを上司や上司以外の適任者が成果の背景を探るというスタンスで評定する仕組みが求められるだろう。個人的には、そのような仕掛けを「成果行動インタビュー」と呼んでいる。これは、結果がどのようなプロセスを経て得られたのかをチェックするもので、「業績評価監査」の手続きともいえる。財務会計には監査が必須であるが、人事評価にも監査があってしかるべきであろう。
日本の人事評価は、成果主義に対応できていない。成果に応じて処遇格差を広げようとしているが、それ以前の問題として水準合わせが十分でない。そこで、コンピテンシーが出てきて、コンサルタントに勧められるから、あるいは単にブームだからという理由で、360度フィードバックを採用するが、部下からの評価には抵抗を示し、寛大化傾向の強い同僚の評価を加えるにとどまることも多い。またコンピテンシー自体、「気の利いた」表現リストにすぎず、評価の厳格化や精度向上になんの意味もなしていない。まさしく迷走している。
このような状況を打開するのは行動インタビュー技法である。しかし、その担い手は、現場のマネジャーではなく、少しでも上位の階層に位置する評価者である。行動インタビュー技法をきちんと身に付けた社内アセッサーが職務行動を評定し、全社的な水準から成果が生み出されているプロセスで、どこまで本人が寄与しているかを見定めていくことで、評価の公正さが確保されていく。この場合、インタビューによって評価を担う社内アセッサーが重要な役割となってくるし、多少その妥当性・信頼性に問題があるにせよ、360度フィードバックを仕組みとして検討する必要性も出てくる。
参考文献(文中紹介を除く)
①Michael Aamodt “Applied Industrial/Organizational Psychology Third Edition” Brooks 1999
②Deborah Whetzel “Applied Measurement Methods in Industrial Psychology” Davies Black 1997
③Richard Fear “The Evaluation Interview” McGraw-Hill 2002
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