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◆ワークシェリングは日本企業で無視されるのはなぜか? |
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不況を乗り切る施策としてワークシェリングがある。これは一人一人が労働時間を減らし、一人当たりの賃金を減らすことで、全体としての雇用を維持し、それによって全体の人件費を低減しつつ、解雇者をなるべく出さないで雇用調整するものである。
ワークシェリングはオランダでは成功したと伝えられ、仮に収入が2割減っても、週に1日休日が増えて、家族と過ごす時間が増えると報告されている。欧州の例では、削減された労働時間の分、職業訓練を行なったという例もあった。しかし、日本では財界でも不評で、考えられないという話がもっぱらだ。なぜか。
そもそも日本では労働時間は最低限の約束であり、その分を働いていないと、欠勤したとみなされる。所定内の労働時間で仕事が終わるという想定はもともとなく、終業時間であるはずの5時半以降も、えんえんと会社のビルの電気はともっているし、本来の出勤時間である9時頃よりもはるか前に出社している社員も多い。就業時間はおおむね職場という空間にいないことには正社員たり得ない。
ただ、勤務時間であっても、どこまでが仕事なのか、わからないことがある。雑談をしながら、打ち合わせなのか、懇親なのか、わからない微妙な時間を持っても、とがめる会社は少ない。
こういう変幻自在な働き方をする日本人にとり、ワークシェリングで週に2時間早く帰れる日が2回できても、その他の日に時間が増えたり、自宅でノートなどで仕事の構想をメモったりして過ごすし、早く退社すれば、さあ一緒に飲もうって言われて一緒に飲むことになり、かえって出費が増えてしまうことさえある。給与が減るなら、行く店が安くなるだけのことだ。実際、新h、新橋、神田など二番手企業も多いオフィス街のはずれにある立ち飲み、吹きさらしの店は6時、7時になると、サラリーマンがあふれかえっている。
もしワークシェリングが可能としても、人件費を下げられてしまうだけである。仮に1割カットできたら、どうなるか。年収1000万の人の場合、手取りに極端な差が少なく、痛みが少ない。これに対して500万の人の場合、どうか。実際に1割ではなく、昇給、賞与、昇格などが手控えられて、実質的に2~3割下がってしまうこともある。そうなると、最も働き盛りの人は抜けてしまう恐れがある。
日本の場合、給与と働きぶりは比例しない。その会社の平均賃金以下の人が最も働いているし、最も高い水準の半分くらいの人がその会社のコアメンバーである。しかし、活躍のピークに払うと、逃げられるかもしれないので、ピークを過ぎた頃に雇用の安定と高い報酬がもらえる仕組みになっている。腑に落ちないが、この後払い方式で日本は成功してきた。
一方、ワークシェリングが成功している欧州の場合、働きぶりと賃金が連動し、比例し、ぴったり一致している。たとえば、料理人の場合、20歳代で徐々に水準が上がり、まさしく技術や体力がピークに達する時期(30-40歳)においておおむね平坦である。そして、40歳代になると、ゆるやかに下降していく。
筆者は45歳で、JEXSの主要メンバーも同年代である。創業時はみんな若くて、深夜に会議をしたり、終電で飲みに出たりもした。しかし、最近はそういうことをしなくなったし、多少だが、老眼にもなってきた。40歳代になると、報酬が年々下がるのは体力、学習力、外見での若さなどから考えても本来、当然であり、経験的には30-40歳までに思い切り働き、40歳前後が管理職になり、45歳で役員などを除けば、補佐役でいいし、個人の選択で辞めてしまう方が実情に合っているかもしれない。しかし、そのためには、30歳代に1億とか2億の報酬がもらえないと、人生設計ができない。
ワークシェリングは日本で成り立たない。それは働きぶり・活躍度と報酬の乖離から考えて当然のことである。しかし、考えないといけないのは、欧州型を目指す人事改革の中で、国際的に見ていびつな賃金カーブをどう変更するかである。一体誰から新しいカーブに乗せるのかなど、大きな問題が横たわっている。過渡期にヘ積み増し退職金を相当払わないといけないかもしれないが、非常に痛みを伴う人事改革になるかもしれない。
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