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◆バーンアウトとストレス要因 - 看護師・介護職における
Multi-rate Feedback by Leadership Competency:Reconfirm
of PM theory |
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Abstract
This article aims to clarify the difference of Burnout and Stress Factors between Nurses and Care Workers. Burnout which has three subscales (Emotional Exhaustion, Depersonalization, and Personal Accomplishment) is a critical indicator of Turnover Intention. Burnout is different from job and gender. Stress Factors are examined and have 5 factors (Easy to Work, Conflict with Clients, Workload, Conflict with Boss, Conflict with Coworkers, and Boss's Support) in Care Workers and 6 factors (Job Conflict, Coworker's Support, Conflict with Boss, Conflict with Coworkers, and Workload) in Nurses. Burnout is decided by Stress Factors, one job is different from the other one. Disillusionment is defined as the gap between their expectation and the realistic for boss, pay, variety of job, use of idea, security and so on. Disillusionment is expanding as working term. There is a difference between two jobs. It is important for us to design the Human Resource Management for the early career while we think job related status and career development depending upon their gender.
1.問題の背景
看護師と介護士 については共に対人援助職ということで、バーンアウトという観点で研究されてきている(一瀬,2006)。永井・小野(2008)は、介護士を対象にしてバーンアウトと離転職意思、またその背景になると考えられる組織コミットメント、さらにストレッサーとしての職場環境要因、加えて仕事観、期待ギャップなどを変数として分析したところ、介護士においては、①入職6ヶ月から1年以内に強いバーンアウトが発生し、それと極めてパラレルに期待ギャップによる幻滅が発生すること、また②バーンアウトが離転職意思の先行指標になること、さらに③バーンアウトにはストレス要因としての職場環境があり、そこに性差があること(女性では上司葛藤や過重労働を経て情緒的消耗感を起こすのに対して、男性では利用者葛藤や働きやすさが背景になって脱人格化を起こすこと)、などを示した。また、小野(2007)は、働く目的を意味する仕事観によってバーンアウトが異なると考え、仕事観の違いによって作られた5つのクラスターによってバーンアウトの度合いが異なることを示した。すなわち、経済的動機を重視する「実利指向型」では、顕著なバーンアウトが見られる一方で、仲間との交流や自らの健康、能力の活用を志向する「自己実現型」、そして信念を強く持ち、それを追求しようとする「信念堅持型」では、バーンアウトが起こりにくいことを示した。
本研究では、介護職における研究モデル を踏まえ、看護師において離転職意思が環境的要因によってどのように形成されるのか、またストレスになる環境要因によってバーンアウトがどのように異なるのか、さらに看護師と介護士でバーンアウトや、ストレスの一側面を示す期待ギャップがどのように異なるかについて検討し、両者の違いとその背景について検討することにした。
2.研究方法
対象
介護職については2007年6月10日から7月25日までに実施された介護士調査のデータセットを用いた。これは福岡県に位置する22の特別養護老人ホームの介護職を対象にしたもので、203名である。一方、看護師については2007年11月15日から12月25日までに福岡県で実施されたもので、3つの病院に勤務する329名である。
調査項目
調査項目は年齢、経験年数などをたずねるフェイスシートのほか、以下の項目から構成された。
(1) バーンアウト
Maslach & Jackson(1981)によるMBIを久保・田尾(1994)が翻訳したもので、17項目からなり、最近の状況を「全くない」から「いつもある」までの5件法でたずねた。
(2) ストレス要因
矢富・中谷・巻田(1997)の示した項目をもとに調査を行なった義本・富岡(2006)の結果を参考にして項目を絞り、19項目とした。最近状況を「全くない」から「いつもある」までの5件法でたずねた。
(3) 期待ギャップ
若林(2006)が示す期待と現実とのギャップに関する15項目を参考に、職務特性を考慮して介護職については12項目、看護師については15項目とした。「期待通り」から「全く期待外れ」までの4件法でたずねた。
(4) 転職意思
介護職については転職意思を①「なし」、②「あり、ただし介護職として」、③「あり、別の仕事」の3件法でたずねた。看護師については、転職願望、離職意思、現状への閉塞感、継続的就業意思を「全くその通り」から「全く違う」までの5件法でたずねた。
(5) 不適応要因
看護師についてのみ、廣瀬(2006)の示す「看護職になり仕事を続ける上で悩みになったこと・仕事を辞めたいと思った理由」を参考に、回答割合の高い11項目とし、「全くその通り」から「全く違う」までの5件法でたずねた。
3.分析結果
バーンアウトの因子構造
バーンアウト尺度の17項目について直交バリマックス回転を伴う主因子法による確証的因子分析を行なった。固有値1.0以上の基準で3つの因子が得られた。各因子を「脱人格化」、「個人的達成感」、「情緒的消耗感」と命名した。それぞれのα係数は介護士調査で.84、.86、.84、看護師調査で.88、.83、.83だった。
職種別・男女別にバーンアウトの平均及び標準偏差を一覧表にした(表1・表2)。これを図示したところ(図1・図2・図3)、脱人格化では、看護の一般女子が顕著であるが、介護では男女とも相対的にあまり高くない。情緒的消耗感では、介護で男女とも強く、看護では女子でかなり高くなっている。個人的達成感では介護男女と看護の一般男子は同程度だが、看護の一般女子で低くなっている。また、情緒的消耗感について、職種別・男女別に図示したところ(図4)、差があることが明らかになった。介護では男子の場合、経験年数と共に下落していくのに対して、女子の場合は上昇し、一時的に平坦になるものの、長期的には悪化していく。看護師では、男子の場合、経験年数と共に緩やかに緩和していくが、女子の場合、経験年数1-3年がピークになっている。
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【表1】 介護士のバーンアウト(平均・標準偏差)
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【表2】 看護師のバーンアウト(平均・標準偏差)
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【図1】 介護職と看護師のバーンアウト比較(脱人格化)
【図2】 介護職と看護師のバーンアウト比較(情緒的消耗感)
【図3】 介護職と看護師のバーンアウト比較(脱人格化)
【図4】 職種別男女別のバーンアウト(情緒的消耗感)
ストレス要因の因子構造
ストレス項目に関する19項目について斜交プロマックス回転を伴う最尤法による探索的因子分析を行なった。固有値1.0以上の基準で、介護士調査では6つの因子解が得られた。因子はそれぞれ、①「働きやすさ」、②「利用者葛藤」、③「過重労働」、④「上司葛藤」、⑤「同僚葛藤」、⑥「上司サポート」と命名された。α係数はそれぞれ、.83、.74、.80、.70、.66だった。また、看護師調査では5つの因子解が得られた。各因子を、①「職務葛藤」、②「周囲の援助」、③「上司葛藤」、④「過重労働」、⑤「同僚葛藤」と命名した。それぞれのα係数は、.80、.74、.78、.75、.60だった。
バーンアウトとストレス要因の相関
介護士及び看護師のバーンアウトとストレス要因について相関行列を示した(表3・表4)。介護職に関しては、情緒的消耗感と過重労働、過重労働と利用者葛藤、上司葛藤と過重労働、同僚葛藤と上司葛藤が.5を超える高い相関を示した。看護師では、情緒的消耗感と職務葛藤、職務葛藤と同僚葛藤及び過重労働、上司葛藤と同僚葛藤で.5を超える高い相関があった。
【表3】 介護士のバーンアウトと職場環境要因の相関行列
【表4】 看護師のバーンアウトと職場環境要因の相関行列
バーンアウトと転職意思
バーンアウトと転職意思の関係を探るために、介護職について転職意思を従属変数とし、個人的属性、バーンアウト、ストレス要因を独立変数とする階層的重回帰分析を行なった(表5)。個人属性のみを独立変数とするモデル1を見ると、満年齢と負の関係、経験年数とは正の関係が認められた。バーンアウトを含めたモデル2では、バーンアウトの下位尺度がいずれも正の関係にあることが明らかになった。ストレス要因を加えたモデル3では、決定係数の増加はなく、F値が低下した。このことから、モデル2の適合度が高く、バーンアウトが説明変数として有力であることが言える。
【表5】 転職意思を従属変数とする階層的重回帰分析(介護職)
看護師について、転職願望と、離職意思、現状への閉塞感、継続的就業意識の相関を示したところ(表6)、継続的就業意識に対して、現状への閉塞感は-.5を超える強い負の相関を示した。4項目はお互いに相関があることが明らかになった。また、看護師について継続的就業意思を従属変数とする階層的重回帰分析を行なったところ(表7)、モデル1では、満年齢が負の関係を示すものの、決定係数は.1未満と小さく、バーンアウトの下位尺度を加えたモデル2では、決定係数が.337で飛躍的に高まった。ストレス要因を加えたモデル3では、決定係数は.031上がったが、F値が下がった。このことから、個人属性にバーンアウトを加えたモデル2の適合度が高いことが言える。
【表6】 転職願望・離職意思・現状への閉塞感・継続的就業意識の相関行列
【表7】 継続的就業意識を従属変数とする階層的重回帰分析(看護職)
現状への閉塞感と不適応要因
看護師についてたずねた不適応要因と現状への閉塞感を重回帰分析で検討したところ(表8)、「職場の雰囲気にうまくなじめない(雰囲気)」、「看護以外の業務の処理が多すぎる(雑用負担)」、「患者のニーズに合った看護ができていない気がする(看護理念とのギャップ)」、「自分は看護職に向いていないのではないかと思う(職務不適応感)」が正の関係を示した。
【表8】 現状への閉塞感を従属変数とする重回帰分析(看護師)
期待ギャップ
介護士、看護師それぞれの期待ギャップの平均点を出し、絶対値を逆にして経験年数による変化を図示したところ(図5)、緩やかなV字になる「幻滅曲線」を描くことができた。これによると、介護士では、入職6ヶ月から1年未満がピークで大きく落ち込み、その後、緩やかに回復するが、10年を越える時期には再び下落していく傾向がある。これに対して、看護師では入職して1年間は多少なりとも上昇し、その後、1年を過ぎて3年目以内になる頃に下落していく。その後は緩やかに上昇していく傾向がある。
【図5】 看護師と介護士の幻滅曲線
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4.討論
結論
看護師と介護士では幻滅曲線、バーンアウトの軌跡が異なっている。また、男女別に見ると、差異が認められる。身体的な負担、家庭的な役割などでその差異が生じてくるものと考えられる。こした差異を考慮し、人的資源管理を展開していかないといけない。例えば、看護師の場合、入職して1年目よりも独り立ちを要求される2年目のほうがキャリア上の危機がある。2-3年を乗り越え、期待ギャップを解消し、現実に順応していく経験を踏まえないと、組織に対する耐性が育まれないと考えられる。一方、介護士については仕事内容に対する期待が膨らむのは最初の数ヶ月だけで、6ヶ月を経過し、1年に満たない頃、最も期待ギャップに苦しみ、情緒的消耗感を覚える。このような時期をどうやってサポートし、乗り越えさせていくかは大きな課題である。
バーンアウトがどう生起してくるかも職種によって異なり、介護士では利用者葛藤、過重労働、上司葛藤などがストレス要因になる。一方、看護師については職務葛藤が最も大きな要因になっている。人間関係や身体的な負担がストレスになっている介護士に対して、看護師では仕事そのものがストレス要因になっている。さらに、看護師では、自分なりに望ましい看護をすべきだという信念があり、それが実践できていないこと、また看護以外の雑用負担が多いことなどが不適応感の背景になっている。また、新人看護師の場合、そもそも仕事に向いていないのではないか、職場の雰囲気になじめないことも違和感を引き起こしている。現実とのギャップを埋める教育、上司や先輩からのケアが求められている。
限界と今後の課題
測定尺度ではストレス要因について一部に信頼性係数が低いものがあり、限界が認められる。今後、綿密な測定尺度で再検討する必要性がある。また、不適応要因の11項目について因子分析を行なったところ、「スキル不足」、「職場への違和感」、「教育不足」、「雑用負担」の4つの因子を抽出することができた。しかし、医療事故への不安という要素が重要であるという指摘を受けた。今後、項目数を十分に設定し、測定尺度を確立する必要がある。
介護士の調査ではバーンアウトや組織コミットメント、期待ギャップ、転職意思などについて施設間に大きな差異があることが明らかになっている。本研究ではこの点を捨象している。しかし、現実に施設ごとの離職率について入職者の半数以上が1年以内に離職する施設もあれば、定着率が良好で10%未満というところもある。こうした差異は看護師が勤務する病院でも同様にあるものと想定される。とすれば、本研究から直ちに看護師と介護士の職種がバーンアウトなどの意識に差を生じさせていると言い切ることに限界がある。今後、類似の調査を行ない、看護師、介護士の職種としての特性を、キャリア初期に生起する諸問題という観点から再検討していく必要性がある。
参考文献
一瀬貴子(2006)「看護職・介護職の職務バーンアウト研究の現状と課題」『関西社会福祉大学研究紀要』,9,pp.101-117
廣瀬佐和子(2006)「新卒ナースの定着対策」『看護』,58,pp42-45
久保真人・田尾雅夫(1994)「看護婦におけるバーンアウト-ストレスとバーンアウトとの関係」『社会心理学研究』,34,pp.33-43
Maslach, C., & Jackson, S.E. (1981) Maslach Burnout Inventory Manual.
Consulting Psychologists Press, Inc..
小野宗利(2007)「介護士の就業意識-組織調査」『経済論究』,129,pp.39-54
矢富直美・中谷陽明・巻田ふさ(1997)「老人介護スタッフのストレッサー評価尺度の開発」,『社会老年学』,34,pp.49-59
義本純子・富岡和久(2007)「介護老人福祉施設における職員のバーンアウト傾向とストレス要因の関係について」『北陸学院短期大学紀要』,39,pp.161-173 |
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