株式会社JEXS
 ◆リーダーシップ・コンピテンシーの多面評価-PM理論の再確認
    Multi-rater Feedback Leadership Competency Reconfirm of PM theory

要旨

コンピテンシーは一過性のブームとみなされることが多いが、本来、そこで目標になっていた高業績を生み出す行動の実現は普遍的な課題である。しかも、コンピテンシーという言葉以前に、長らくリーダーシップ研究で取り上げられ、議論されてきた問題である。

わが国におけるリーダーシップ研究では、LMX理論と共に、三隅二不二によるPM理論が有名である。リーダーシップ行動を行動指標としてまとめ、これを因子分析すると、PerformanceとMaintenanceに分かれ、二因子構造を持つとするPM理論は単純な構造ゆえに正当に評価されてこなかったきらいがある。そこで、本研究では、三隅と同じく行動指標を拾い、これを整理してクラスター分析によって系統化した。その結果、大枠ではPM理論に類似した構造を見出すことができた。また下位の因子でもほぼ同等の因子構造を確認することができた。また主成分分析を行なったが、それによっても2因子構造が確認できた。

三隅は中間管理職のリーダーシップ機能について6つの因子を想定していた。これに対して、本研究では、戦略志向、組織調整、動機付け、人事管理、実行徹底の5つの因子が因子分析によって明らかになった。三隅は因子分析で主因子法、バリマックス回転で実行したが、本研究では主因子法、プロマックス回転で行なった。

本研究の特徴は1つに多面評価によって本人の日常行動を観察・評価したことにある。上司による評価、同僚による評価、下位者による評価などの情報を集め、それらを周囲評価として統合した。このようなアプローチを取ったために、サンプル数がやや少なくなったが、評価情報自体は多く、分析結果はサンプル数の多い三隅研究と軌を一にすることになった。

リーダーシップ研究では綿密に行動指標を拾い、それによって学習しやすい環境作りを行なうことが必要である。行動指標をわかりやすく示し、それによって職務行動を改善向上させる取り組みは本来、コンピテンシー運動が狙ったことであり、このことは普遍的な組織開発、人材開発になるものと考える。


はじめに

コンピテンシーは90年代以降に米国で生まれ、画期的な人事組織上のイノベーションとして日本に紹介された。しかし、コンピテンシーが目指した高業績の実現は普遍的な人事組織マネジメントの手法であり、効果的なリーダーシップを待望する経営管理における古くて新しい課題である。日本では三隅二不二の確立したPM理論においてその原初形態を見出すことが困難ではない。そこで、本研究では言動を整理し、データを分析してリーダーシップのパターンを明らかにすると共に、三隅のPM理論との比較においてそれらが符合することを示そうとしている。


リーダーシップ・コンピテンシーの意義

コンピテンシー(Competencies)とは、日本において一般に「高業績者の行動特性(Behavioral attributes of High Performers)」と考えられているが、共通認識となる定義があるわけではない。Klemp(1982)によれば、コンピテンシー(Competency)とは、①「効果的で優れたパフォーマンス(業績や働きぶり)をもたらす人に見られる特性」のことで、②この特性は「動機(motive)、性向(traits)、技能(Skills)、知識(Knowledge)などの総体」からなるが、時に③「本人も保持していながら気づいていないもの」である、という 。日本ではコンピテンシー・モデリングを行なう際に行動インタビューが効果的であるとされてきたし、現在でもそういう認識はある。しかし、③にあるように、「本人も気づかないもの」をどうやって短いインタビューで把握するのか、表出化として問題となる。実際、自己の職務行動の優位性を自覚して質疑に答えられる人はそう多くない。そもそも有能な人ほど、自分の行動について奥ゆかしく、遠慮がちに語るのではないだろうか。それ自体、美徳であり、有能さの証と考えられている。また当事者や関係者は、職務行動や組織行動に関する出来事について質問されると、誇大に語ることも少なくない。現実離れした成功譚を語り、あるいは逆に不満や問題点を口にして大袈裟に嘆くこともあるだろう。実際、高業績者/ハイパフォーマーをインタビューしても、ありきたりの問答に終始し、核心に触れる本人特有の特性や、仕事の成功/失敗に結びつく出来事(いわゆる「重要事象/critical incidents」)の抽出が必ずしも行なえるわけではない。時にインタビューは本題から逸脱し、収拾のつかない話になり、タイムアップになってしまうこともある。むしろ質問紙による調査のほうが網羅的かつ的確に実態把握が行なうことができる。本稿では1つにこのこと、つまり聴き取り調査に対する質問紙調査の優位性を確認してみることが大きなねらいである。これは重要な方法論的ないし組織認識論的な争点である。

またコンピテンシーの普遍性に関して確認することの必要性である。コンピテンシーに関しては、概ね1998年から2003年にかけて日本でも熱狂的な関心が寄せられ、人事改革の大きな柱になっていた観がある。コンピテンシーは成果主義人事改革とそもそも異なる臍の緒を持つものだが、①平均的業績ではなく高業績を標準とする志向性を持つこと(raising the bar)、②職能資格制度における情意考課や能力考課を一新する組織言語体系を持つこと、つまり単に組織に従順な実在者ではなく、組織に貢献し、結果を出せる人を評価すること、この2点から、脱「能力主義」 の人事改革の手法の1つとして位置づけられた。それだけに人事改革が一巡してしまうと、関心が薄れるばかりか、旗振りされてきた成果主義に対する拒絶感、不要論もあり、人事改革の終焉とともに食傷気味になってしまった。現在ではコンピテンシーは単なる一時的にブームに過ぎない、もはや議論する意味すらないという指摘もある 。しかし、それは日本的な人事改革の文脈に位置づけられた「コンピテンシー」の問題であるに過ぎない。コンピテンシーの本来的意義からすると、それは普遍的な人事管理・人材育成の問題であると考えるほうが適当だろう。ここで本来的意義とは、組織内で高業績を発揮する人の行動特性を探るということ、あるいは業績と効果的な組織行動を関連付けて考えるということである。さらに言い換えれば、効果的なリーダーシップとはどのようなものかを探ることである。ただ、このコンピテンシーという言葉を、身を乗り出して使うべきかどうかは当初から疑問を持っている 。1つにはコンピテンシーで想定している組織行動の分析はその言葉がある以前から行われてきたことであり、もう1つにはコンピテンシーを主張する人々の心理統計的手法の不十分さがあることである 。本稿では、概念としてのコンピテンシーについての議論は避け 、実務的に展開されたコンピテンシーの事例を取り上げつつ、従来、リーダーシップやマネジメント能力の問題として研究されてきた系譜に沿って、職務行動/組織行動を分析し、統計的手法によって広い意味でのリーダーシップ・コンピテンシーを明らかにしていきたい。またその評価については多面評価を活用したい。

ところで、わが国のリーダーシップの研究では、三隅二不二による経営トップのリーダーシップ、中間管理職のリーダーシップに関する重厚な研究がある(三隅,1988など)。三隅はPM理論で知られ、行動指標を①Performance「目標達成能力」と②Maintenance「集団維持能力」の2因子に要約した。しかし、この最終の結論部分だけが伝えられるために、組織現象の何もかもを2因子に還元して捉えることにこだわったとか、それ以外の要因はあまり考えなかったと見られていることがある。言われなき批判である。これは大きな誤解である。例えば、三隅は、工場課長の組織行動の因子について、計画性、内部調整、垂範性、厳格性、配慮、独善性の6因子がある、としている 。もちろん、その下位まで考えていたし、具体的な行動指標を想定していた。指標を各管理者の行動評価にすることも示していた。また三隅理論では「因子」という言葉を濫用することが誤解を招き、また統計分析になじみのない人たちには無意味な数字が列挙されているように受け止められ、ますます別世界のもの(無味乾燥な統計数字の羅列)と一部には捉えられてしまっている。しかし、このような「因子」こそ、コンピテンシーに他ならず、三隅こそ日本のみならず、リーダーシップ・コンピテンシー研究の先駆者であると考えるべきであろう 。三隅は、クルト・レヴィン賞を受賞し、世界的に評価された稀有の日本人組織心理学者だが 、本研究は三隅の研究の一部を継承するものに過ぎない。


多面評価の人事システムとしての意義

多面評価とは、被評価者である本人の直属上司のみならず、その上司の上司や他部門の上位者や、本人が普段、職場で一緒に仕事をしている同僚、さらにその本人に部下がいればその部下、あるいは後輩や顧客など多方面から評価情報を求める仕組みであり、それによって本人の強みと育成点を示唆し、気づきを促すことによって自己啓発を促進する人事システムである(Tornow,1993;Dessler,1997)。米国では360°評価ないしは360°フィードバック(360 degree feedback/multi-source assessment)として研究と実務の両面から展開されてきたが、実践面が先行してきた(London&Smither,1995)。

多面評価に関する研究の潮流について、高橋潔(2001)は、5つの論点があるとしている。第1に多面評価のプロセスに関する認識論的問題であり、心理測定的に十全な評価法を開発することが目的か、または組織目標を達成するための手段とする実務的な考え方かに立つか、というその論点である。第2に多面評価に対する反応(reaction)に関するもので、例えば、部下評価の結果をフィードバックに加えたほうが好意的になるといった論点である。第3に多面評価における評価の一致(agreement)の問題であり、この観点からは多くの研究がなされている。自己評価と他者評価は食い違い(discrepancy)が生じることは当然だが、その解釈は議論が多い。ただし、他者間の評価について概ね一致するとされている。第4に自己認識(self-awareness)が業績やキャリアに及ぼす影響である。多面評価に関して本人が自己に関して過大評価、適正評価、過小評価するかによってその後にキャリアがどうなるかも大きな論点である。第5に多面評価が管理者のその後の業績や職務行動、スキルの習得などについて及ぼす系時的効果(longitudinal effect)に関する研究である。

多面評価における多くの論点を検証するには本研究のサンプル数は十分とは言えない。そこで、自己評価以外の周囲の評価は比較的一致しているという見解を踏襲し、周囲評価を多面評価の結果とみなして分析を進めていく。


行動指標の整理とコンピテンシー・モデリング

リーダーシップ・コンピテンシーに関する行動指標は複数の企業に対するコンサルティングによって構築された。A社 ではコンサルタントがコーディネーターとなり、人事部門を事務局にして各部門の関係者が集まり、各部門でうまく仕事をするためにはどのような能力が必要か、どんな行動を取らないといけないかが徹底的にブレーンストーミングされた。コンサルタントは、英語圏のコンピテンシー・リストの例を日本語と英語の両方で示し、なるべく不足した部分を補い、議論を活性化することに寄与した。半年ほど経過し、その結果は全社共通のコンピテンシー・リストに結実した。コンピテンシー項目ごとに行動指標を整理し、列挙した。またB社 では行動要約尺度によるまとめをするため、想定したコンピテンシー項目について高業績行動、標準行動、問題行動をそれぞれ列挙し、リストにまとめた。以上のようなコンピテンシー・リスト作成の作業を通じてできた行動指標は、後に丹念に推敲され 、1項目4指標の形で整理された(表1)。これらのリストは多面評価のソフトにして操作性が確保された。

【表1】 コンピテンシー項目と行動指標
行動指標 項目名 定義
1 職場に新しいメンバーが入ってくれば格別の配慮をし不安を取り除き融和を図る リテンション・
マネジメント
人材の定着化と戦力化に努め、新しいメンバーに配慮し、その融和を図り、貢献意欲を引き出していく。
2 職場のメンバーが抱きがちな不平不満やモチベーション問題に敏感である
3 人材の定着化と戦力化に腐心し対策を怠らない
4 組織への貢献意欲を自然と引き出しやりがいを実感させている
5 自分が言ったことには責任を持ち自らが率先して徹底している 有言実行 自分が言ったことは必ず実行しており、決めた目標に対して熱心に努力を傾け、結果が出るまでとことんやり通す。
6 言行が不一致で信用を失ったり反感を買うことはない
7 高い目標を掲げ自らが率先して行動に傾注している
8 期待する成果を求めて組織のメンバーと共に努力を傾ける
9 現状に甘んじることなくより高い状態を志向する イノベーション 現状に甘んじることなく、戦略とビジョンを示し、その方向性に従って組織を統合していく。
10 戦略とビジョンを明確に示し組織の方向性を変えていく
11 改める要素を明確にし、代替する価値観や行動スタイルをはっきりと示していく
12 組織全体を望ましい方向へと牽引していく
13 上位の方針を受けてその明確化を図っていく ビジョン共有 共有すべきビジョンを日頃から示し、具体的なイメージを共有することに努め、組織内に浸透を図っていく。
14 自らビジョンを示し具体的なイメージを共有化していく
15 方針やビジョンの浸透を図っていく
16 ビジョンを共有化するための話し合いを適宜メンバーと行っていく
17 下命調に流れることなく部下の合意と納得した上での協力を重視している チームワーク コマンド・コントロールではなく、メンバーが相互補完的に支援し協働していくチーム方式を醸成し、一体感を高めていく。
18 強い語調で叱責したり強制力を行使することはなるべく避け温和な話し合いで事を進めていく
19 相互補完的に仕事をする雰囲気を自然と醸成していく
20 チームとしての一体感を醸成し協働関係を作り出していく


本研究における調査方法

調査対象の企業はP県の本社を置く中堅企業(従業員数約300名)である。業務内容はGPS(地理情報システム)の開発設計を行なっている。対象になったのは同社の課長クラス以上の管理者および役員で42名だった 。既に作成されているコンピテンシー・モデルの行動指標を質問紙に落とし込んで実施された。評価は本人評価(self-rating)、上位者評価(downward-rating)、同僚評価(peer-rating/lateral-rating)、下位者評価(upward-rating)として実施されたが、周囲評価は3つが揃わないケースもあるので、まとめて周囲評価とし、その平均点を本人に対する評価とした。結果は専用ソフトによって集計された 。

項目ごとに整理された出力結果を整理するために、プロマックス回転を伴う主因子法による因子分析 を行なった(表2)。また部下管理・スタッフ管理に関連するコンピテンシーに絞って相関分析を行なった(表3)。さらにコンピテンシー項目の相互関係を確認するため、変数別のクラスター分析(Ward法、平方ユークリッド距離、標準化なし)によってデンドグラムを描いた(図1)。またケースごとにクラスター分析を行ない、それによって管理者のタイプ分けを行なった(図2)。分析にはSPSS for windows ver.14を用いた。

【表2】 コンピテンシー項目の因子分析
  共通性
戦略志向 組織調整 動機付け 人事管理 実行徹底
学習志向性 1.14 -.13 -.11 -.22 .14 1.40
実利志向性 .97 -.21 .22 -.25 -.03 1.09
パラダイムシフト .96 -.05 -.03 -.06 .18 .97
マーケット志向性 .96 -.17 -.01 .17 -.17 1.01
戦略的思考 .78 -.02 .16 .13 -.12 .67
成果志向性 .77 -.02 .09 .04 .23 .65
アカウンタビリティ .68 .49 -.09 -.24 .29 .85
イノベーション .62 -.21 .35 .21 .06 .60
関係構築力 .62 .22 .19 -.04 -.05 .47
顧客志向性 .60 .23 -.07 .03 .31 .52
ナレッジマネジメント .58 -.05 -.04 .43 .13 .54
現実的対応 .57 .36 -.15 .18 .10 .51
クオリティ追求 .53 .03 -.11 .46 .16 .53
ビジョン共有 .45 .08 .45 .07 -.05 .42
権限委譲 .42 -.09 .29- .22 .26 .38
自尊感情への配慮 -.26 1.09 .06- -.14 -.04 1.29
セルフコントロール -.13 .97 -.28- .22 -.02 1.08
利害調整力 -.10 .84 .06- .14 .03 .74
傾聴反応力 .03 .79 .03 -.03 .19 .66
自省性 .17 .75 .27 -.18 -.06 .69
多様性受容 .63 .67 -.12 -.12 -.12 .89
チームワーク -.31 .65 .36 .11 .21 .71
信頼性維持 .06 .57 .22 .01 .23 .44
人間理解 .05 .56 .10 .36 -.15 .48
リテンション .00 .03 .90 -.08 .19 .86
エンパワーメント .17 .89 -.11 -.03 .04 .83
人材育成力 .34 .06 .59 .10 -.16 .51
行動強制力 .05 .28 .42 .30 -.02 .35
公私のバランス -.07 .08 -.01 .82 .16 .70
人事評価力 .03 .45 .00 .54 .08 .50
率先垂範 .43 -.06 .11 .44 .24 .45
コーチング .25 .26 .10 .43 .09 .33
確認徹底力 .42 .03 -.18 .39 .47 .58
有限実行 .30 .02 .19 .30 .43 .40
人材活用力 .13 .27 .26 .21 .33 .31
因子寄与 12.78 8.95 5.14 4.79 3.50 35.16
寄与率 68.15 9.60 3.17 2.22 1.81 84.95

【表3】 部下管理・スタッフ管理に関連したコンピテンシー項目の相関
   傾聴
反応力
人事
評価力
人材
活用
人材
育成
多様性受容 利害
調整力
人間
理解
自尊感情への配慮 エンパワーメント 権限
委譲
行動
強制力
コーチング 率先
垂範
傾聴反応力 1.00                        
人事評価力 .75 1.00                      
人材活用 .73 .80 1.00                  
人材育成 .60 .80 .74 1.00                  
多様性受容 .75 .74 .69 .70 1.00                
利害調整力 .82 .78 .75 .61 .76 1.00              
人間理解 .72 .85 .71 .75 .78 .78 1.00            
自尊感情配慮 .78 .64 .59 .42 .60 .80 .66 1.00          
エンパワーメント .63 .75 .78 .88 .69 .71 .75 .55 1.00        
権限委譲 .58 .69 .80 .74 .66 .57 .56 .34 .71 1.00      
行動強制力 .64 .84 .75 .82 .68 .75 .77 .57 .85 .72 1.00    
コーチング .68 .86 .80 .81 .80 .72 .84 .54 .79 .80 .84 1.00  
率先垂範 .61 .79 .77 .77 .71 .60 .70 .35 .74 .85 .82 .89 1.00
リテンション .62 .72 .75 .81 .59 .59 .68 .46 .91 .72 .75 .76 .74

【図1】 コンピテンシー項目のデンドグラム

【図2】 高業績者と低業績者の性格分析


調査結果と考察

項目ごとの因子分析から5つの因子を抽出した(表1)。各因子は、「戦略志向」、「組織調整」、「動機付け」、「人事管理」、「実行徹底」とそれぞれ命名された。戦略志向には学習志向性、実利志向性に始まり、15の項目が並んだ。組織調整では、自尊感情への配慮、セルフコントロール、利害調整力などの因子得点が高い。動機づけでは、リテンションやエンパワーメントの因子得点が高い。人事管理では、公私のバランス、人事評価力、率先垂範があり、実行徹底では、確認徹底力、有限実行が並んだ。本研究における因子数は5つであり、三隅研究とは基本的に符合しない 。

変数ごとのクラスター分析からは、大きく「集団維持能力」(リテンションから自尊感情配慮まで)と「目標達成能力」(マーケット志向性から権限委譲まで)に2分割できる。この大区分の命名は三隅のPM理論の枠組みに従った 。集団維持能力は「部下管理能力」と「自己管理能力」に分かれ、目標達成能力は「戦略的構想力」と「実行推進力」に分かれた。さらに細かいクラスターを見ていくと、11程度の塊をなしている。主なところで、「動機付け&定着化」、「育成&フィードバック」、「チームワーク&調整」、「変革的ビジョン」、「現実的対処&アカウンタビリティ」、「変革&成果志向性」、「実行徹底」などとなる。これらの能力区分は一定の普遍性があるように思われる。大区分で2つ、中区分で4つ、小区分で11という枠組みも三隅理論と符合するとは言い難い。

部下管理・スタッフ管理に関連するコンピテンシー項目はもともと管理者のリーダーシップスタイルの違いを考慮して構築されたものだが、人的マネジメントに関しては原因系と結果系が混在している 。相関分析したところ、結果系に相当する人事評価力については、人間理解(.85)、行動強制力(.84)、コーチング(.86)が特に高かった。部下を人間として理解し、その強みと弱みを把握して適切に行動を修正させられることが「人事評価力」として期待されていることが理解できよう。また人材活用力では、自尊感情への配慮がやや低い(.59)。ある程度は部下のプライドを犠牲にしないと、仕事を任せて日々の仕事を推進していけないと解釈することができる。人材育成力では、やはり自尊感情への配慮が低く(.42)、エンパワーメント(.88)とリテンション(.82)がやや高い。やはり育成のためには相手のプライドをある程度犠牲にし、言うべきことは思い切ってはっきりと言い、一方でやる気にさせることに重きを置かないといけないと読めるだろう。総じて相関関係が高い中で、「自尊感情への配慮」が特異な位置を占めている。権限委譲(.34)、率先垂範(.35)などが特に低い。「強いリーダーシップ」とは、自尊感情への配慮と背反する部分があるのかもしれない。また一方で、自尊感情の高さは管理しにくさと関係すると考えられる。

自尊感情の位置づけを確認するため、同社で実施した性格テスト で高業績者と低業績者に分けて比較してみた(図3)。なお、業績はここでは単純に多面評価の総点とした。それによると、客観性、気分性、規則性、自尊心、弱気さが格差因子になっているが、自尊心の格差は比較的小さい。自尊感情の低い人はある意味で管理しやすいが、活躍している人は自尊感情がより高い。これらの関係は検討すべき課題の1つである。

管理者のタイプ分けするためにクラスター分析を行なった。クラスターの設定数は4と6でそれぞれ実施し、その結果について「グループごとの平均」を算出した。項目ごとの全体平均に対する差異をそのタイプの特徴として検討したところ、4タイプでは、①成果志向の変革型リーダー(24%)、②口下手な自己完結型リーダー(21%)、③無責任な様子見型リーダー(19%)、④無難な堅実型リーダー(36%)となった 。これらについて性格テストの結果を各タイプの平均スコアとして描いたところ、図3のようになった。格差因子は客観性、気分性、規則性、共感性、従順性、自主性などであり、これらが変革型リーダーの特徴となっている。様子見型は協調性と自己信頼性、指導性、共感性が低い。自己完結型はテストで見る限り、優位性が高いが、気分性、弱気さが高く、ビッグファイブで言うN(神経症傾向)が高いと推定される。

管理者のタイプについて6タイプでも同様の分析を行ない、行動ディメンションでまとめたところ、図4のようになった。全体としてハロー効果が強いためにクラスターが層を成しているのが特徴だが、いくつか独自のものもある。タイプAは自律一貫性が高く、やや対人感受性が低い下命調型。タイプBは説得対話力と対人影響力について特に低いことが目立ち、影が薄い控え目型。タイプCは能動性/持続力と柔軟性だけが高く、問題分析力、自律一貫性など総じて低く、元気な場当たり型ということになる。タイプDは特に低いところがない平均型。タイプEはコミュニケーションが下手なところが特徴になっているので、口下手型。タイプFはソツのない優等生型である。元気な場当たり型が抽出されたが、全体としてはあまり適当なタイプ分けにはならなかった。このサンプル数では4タイプがよりフィット感があると判断できよう。

【図3】 管理者のタイプと性格特性

【図4】 クラスター分析による管理者のタイプ分け


討論と今後の課題

本研究では、表1に関して追加的に、主成分分析を行なって確認すると、成分1に全ての項目が.4以上となり、成分2には.4以上の項目は5つ並んだに過ぎなかった 。成分3以降は低い寄与率になった。このことから、リーダーシップの2因子構造は支持される。その意味で三隅のPM理論は適切な基本フレームと考えることができよう。本研究の「戦略志向」と「実行徹底」はP機能に当たるし、「組織調整」、「人材育成」、「人事管理」はいずれも三隅のM機能に相当する。またクラスター分析の結果は、実際の命名をどうするかの問題だけで、PM理論の大分類に概ね一致した。三隅における計画性、内部調整、垂範性、厳格性、配慮、独善性の6因子は、計画性と戦略志向、内部調整と組織調整、垂範性・厳格性と人事管理が概ね対応するが、配慮と動機付け、独善性と実行徹底は多少とも対応するものの、やや違いもある。このように職務行動ないし組織行動の指標は必ずしも三隅の下位尺度と符合するわけではない。

三隅研究と本研究の差は1つに、本研究におけるリーダーシップ・コンピテンシーが、人によって異なるし、時に背反する行動が場面によって効果的になると想定する状況対応型で設計されたことによる。このことによって拾い出された行動指標が異なったものとなった。また個々の行動指標に対してラベル化されたものの違いである。また三隅の研究ではタイプ分けへのこだわりはなく、PMという基軸に沿った、ある意味で一元的な優劣を問う傾向がある。しかし、一見無能な管理者や実在者にも存在意義があり、全てが組織の優等生になっていくわけではない。むしろ偏った管理者の類型を積極的に認める接近法が必要だと考える。この点が本研究の独自性でもある。

本研究はわずか42名の対象者を分析したものに過ぎない。しかし、それでも事前に質問紙になる行動指標の作成に精力を相当割いた。その結果、統計分析の結果は概ね現実感があり、もっともらしいものとなった。先行研究であるPM理論のフレームワークとも概ね一致した。この組織に対しても事前ヒアリングのような場を持って、有能な管理者の実情について確認をしたが、はっきりとした答えは得られなかった。このことから、聴き取り調査と比較しても、質問紙調査を行うことの優位性は確認することができたと考える。少なくとも、聴き取りは大枠を決めるのには適した手法であるし、本研究でも膨大な聴き取りとブレーンストーミングを行ったわけだが、それは情報を統合化する手続きにはなっていない。聴き取りによって把握された事柄は質問紙調査で裏付けられる必要性があると考える。

多面評価に関しては論点が多いが、本稿では高橋潔(2001)が指摘するように、他者による評価は概ね一致するということで、他者/周囲の評価を平均スコアとして取り扱い、その人に対する社内評価であるものとした。機会を改めてその食い違い(discrepancy)に関する分析は行いたい。特に自己評価に関してはデータがあるので、自己評価がどうなっているのか、操作的定義によって得られる過大評価、適正評価、過小評価と管理者のタイプを議論したい。またフィードバックの問題は今回調査対象になった組織体では検討しにくいと考えられる。この点もより大きな組織で、フィードバックに関する諸論点を検討したい。

データから得られた論点はまだ多い。階層別、性別、年齢・世代別などに分けて組織の管理者のタイプを検討し、人材育成に役立てていくべきだろう。またクラスター分析による実在者のタイプ分けは適性の確認や配置に役立つものである。一過的な組織診断ではなく、定例的な業務の中に織り込んでいけないか、課題になるだろう。また本研究では紙幅の関係もあり、先行する理論に関するサーベイを十分に展開できなかった。稿を改めて多面評価、リーダーシップ、コンピテンシー、業績評価などについて、それらの今日的な研究動向を探って、提示したい。



参考文献
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London, M. Smither, J.W. (1995) Can multi source feedback change perceptions of goal accomplishment, self-evaluation, and performance-related outcomes? Theory-based applications and directions for research. Personnel Psychology,48,803-839
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三隅二不二(1984)『リーダーシップ行動の科学』有斐閣
Tornow,W.W.(1993)Perception or reality: Is multi-perspective measurement a means or an end? Human Resource Management,32,221-229
高橋潔(2001)「多面評価(360°フィードバック)の多特性他評価者行列分析」経営行動科学学第14巻第2号,pp61-85
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