株式会社JEXS
 ◆業績評価の実務的展開:その視点と運用の仕方-何をどこまで誰がやるのか?

寄稿先:隔月刊看護部長通信



日本の業績評価には制度的欠陥がある

業績評価というと、日本では人事考課のうち、業績や成果など結果に近いものを評価の対象にした部分をいうことが多い。これに対して、行動評価があり、それは結果を導き出す潜在的な部分や個人の適性、プロセス、仕事の仕方などを指している。業績評価と行動評価の二本立てで人事考課を構成するという方式は最近では一般的な体系となっている。しかし、このような意味での業績評価、つまり評価における基準設定には根本的に無理がある。この点をある程度議論しないといけない。

■ 日本で一般的な人事考課の構成
人事考課    業績評価
        行動評価

■ 米国における業績評価
人事考課=業績評価→行動評価or結果評価

思うに、このような二本立ては大きな矛盾をはらんでいて、行動評価に関しては評価尺度を整備するなどして評価技法を確立させやすい。しかし、日本で言うような業績評価の領域は米国の人事評価実務には厳密には存在せず、評価は困難を極める。多くの場合、やむなく目標管理を導入してその達成状況によって業績評価を行う方式が広く採用された実務となってはいる。しかし、ここに根本的な制度上の欠陥があるといわざるを得ない。なぜか。

達成率、つまり評価結果は実際のパフォーマンス(働きぶりや結果)以上に予め設定した期待基準の高さによって決まる。つまり、期待のバーの高さが低ければ評価は高くなるし、バーが高ければ達成できない。評価は結果そのものではなく、期待の高さに決まってくることになる。この調整は実にあいまいである。見方を変えれば、調整しやすいということにはなるが、ここを確信犯でやっているわけではなく、何らかの客観的な方法があり、打開策があると考え、煩悶している実務家が多い。

成果主義が狙うように人件費を下げるには評価を切り下げないといけないという要請が実のところある。そこで、期初に達成できない目標を掲げさせ、期中期末に未達を追及する上司、追及される部下という現象が必然的に生じてくる。そんなネガティブな話し合いは期初も期中も期末も重苦しいものとならざるを得ない。しかし、話し合いを通じて部下の納得感を高め、モチベーションを上げて職場を活性化せよと人事には旗振りされる。そこに1つの悩ましさの源泉がある。

もともと何をやってもポカをやる人に大した仕事をさせられないし、これぞという人には思い切って困難な仕事を任せることになるだろう。しかし、達成状況はそもそもその人の業績とは言いがたい。それ以前の問題として期待基準を適切に設定すること自体が極めて難しいからだ。にもかかわらず達成状況が業績だという以上、それは上司のさじ加減で一切が決まるというものになってくるほかない。このような悩ましい状況は本来的に矛盾しているが、それを現場が考えて何もかも解決すると期待したところで閉塞感が出てきて致し方ないだろう。あたかも一休さんが足利義満に言われて屏風の中のトラを捕らえて見せよといったとき、ではそのトラを屏風から出してくださいと答えたようなトンチか、禅問答ようなの世界である。これも苦悩の源泉である。頑張ればバーを上げよ、高いバーで目標設定すること自体が積極性だといい、頑張らせておいて到達できないようにバーをうまく設定せよ、こんなことを画策する上司を部下は信頼することは難しくなってくる。上司との信頼関係と厳正な評価結果(rating)は本来的にトレードオフの関係なのかもしれない。

人事考課は主観的でいけないといいながら、それを測るものが何もないまま現場に任せ、客観的にやれと人事は迫る。しかも甘く評価せずに並か並以下にするのが標準であるといろいろな形で迫られるという実態がある。しかし、行動評価に関しては客観性を持たせた技法が確立されているが、一般にウェイトの高い業績評価に関しては上記のようにザルのような状態を脱していない。米国でもそれについて有効な打開策が編み出されているわけではいない。米国では日本的な意味での業績評価は廃する取り組みが進んでいるのが実情だからである。米国で四半世紀前に見捨てられた業績評価のやり方がどういうわけか90年代以降、米国式として紹介され、今日でもなおその導入に熱心な企業が後を絶たない。これはどういうわけか。病院の場合、結果によって評価しやすい職務はあまりない。むしろ成果となる職務行動のプロセスを常に見届けないといけない性質の職務が中心である。ゆえに、結果志向の目標管理型業績評価は明らかになじみにくい。では、具体的にどうするのか。


成果主義人事で本当にすべきことは何か

成果主義人事で直面する問題をどう解決するか、思うに、次の点を考慮して考えないといけない。

まず評価制度や賃金制度を改訂しても人件費の抑制効果はそう大きくないこと忘れてはならない。従来の職能資格制度は、それによって人事上のあらゆる決定が可能となるとされてきた。しかし、そこにあるのは主に同一等級内での昇給査定の仕組みだけであり、それによっては決定できない問題も実は多い。モチベーションを重視すれば加点的に評価するのは当然だし、ポジション(職位)を得ない人にまで管理職待遇を提供すれば本人は納得するが、そのコストは計り知れない。職能資格制度のような、言うなればローリスク・ハイリターンで、安定的で生涯保障の仕組みは優秀な人材の確保には役立つだろう。しかし、そんな実在者のゆとりある相互保障システムは提供できなくなった。

実在者に含まれる低業績者を明確にし、その処遇を見直すことなく、人件費は下がらない。本当に人件費を下げないといけないなら、その目標値を決め、適切な要員を考え、正社員で構成することが無理ならアウトソーシングするなど人材ポートフォリオを真剣に考えざるを得ない。経営上のリスクを従業員に負わせる仕組みではいい人材が集まらない。いい人材は固定的で恵まれた条件でないと集まらないし、定着しない。しかし、全員を恵まれた条件にすれば経営が成り立たないこともまた現実である。

またローパフォーマーの問題も大きい 。産業界ではバブル入社組などローパフォーマーの問題を近年は重要な課題としている。採用基準を厳格化し、並程度にならない人材の採用を極力しないよう努力している。雇った人への責任はあるが、雇わない権利はあるというわけではある。しかし、人を雇わない状態が続くと企業も疲弊し老化してしまう。労働法では解雇権も盛り込まれ、実務的には解雇は身近なものとなりつつある。給与分の仕事をしない人がいることにうすうす気づきつつ、それを本人にはっきりといえなかったことが実は大きな問題なのである。仕事の中身が伴わない人は辞めてもらう。ただ、辞めてもらう以上は本人も納得できるルールが必要だし、従業員の削減に当たっては退職条件の提示が過渡的には必要である。

企業は昇格の厳格化や節目での社外転身の促進など生涯にわたって人材を抱え込む人事を見直している。しかし、全社的な観点でなされるべき昇格や昇進は上司の評価だけで決定することは難しい。まして社外転身を現場の上司がその裁量で決めてしまうなら人材育成も疎かになってしまうし、その話し合い方に戸惑いを生じるだろう。そこで、人事考課を補完し代替する評価の技術や制度が必要となる。定期的にその人が引き続き在職するかどうかを検討する視点が必要になってくる。一定の任務を全うしない人は雇用継続しないという取り組みも出てきているが、思うに必然性がある。ただし、企業が提示する勝手な条件は不当なこともあるかもしれない。この点は職探しをする人が条件を見定め、自由に離職することでなるようになっていくと通常は市場原理として考えられている。然るに労働の流動性のないところに自然調整もありえないのである。


そもそも業績評価とは人事考課のこと

日本語の「業績評価」を英語でPerformance Appraisal というが、この語感は日本語の「人事考課」に近い 。つまり、ここで本来業績評価とは人事考課のことである。そして「人事評価」が職場で働く人物ないし人材の一切をいろいろな視点や方法で評定することを指すのに対して、人事考課とはその評価者が直属上司である点に特徴がある。また昇給や賞与という処遇決定のために置かれた制度であり、「査定」という言い方がされることもある。人事考課と人事評価の関係があいまいで明確に意識されていないことは大きな問題かもしれない。この点をまず整理しないといけない。

■評価対象の種類と問題点
 
評価対象 主な内容 評価対象としての問題点
業績・成果 職務行動を通じて本人がもたらした財務上の成果や、収益やコスト低減につながる職務上の成果であり、職務活動の結果である。 本人が実際にやったことが実際にある業績や成果にどう影響しているかを明確化できない。そのためにチームとしての成果は手柄の奪い合いが生じやすいし、本人の行動に原因を求められない出来事の取り扱いが難しい。
職務行動
パフォーマンス
組織や上長から期待し要求された役割や任務、課題について本人が取り組んだ活動全体を指し、その効果を含んでいる。 本来人事考課の対象とすべきもので、米国の人事評価実務では評価の対象となっている。しかし、日本ではどこまでがそれなのかという区分けがあいまいになっている。
職務知識 職務を遂行する上で必要となる職務関連の知識を指す。 日進月歩で変化することと職務を遂行する上で知識はむしろ前提条件で個人差を認識する要因にはなっていないことが多い。
スキル 職務を遂行する上で必要となる職務関連のスキルを指す。 職務知識と同様で、スキルを形成していることは職務遂行の前提条件で、個人差としては認識しにくい。
行動特性 職務行動に見られるその人なりのパターンで、その人について他の実在者を際立たせている特徴、強みもあれば弱みもあるが、それらを周囲が認知した部分をいう。 近年コンピテンシーとして注目されているが、本人も気づいていない部分で把握が難しい。明示しても同じようなものになってしまいやすい。他者観察で測れるが、評価エラーが生じやすい。
資質特性 長年の間に確立された心理測定技術により把握される個人についての特質で、主に質問紙法によって自己認知を確認することで把握される。 性格など本人の人格を含むものであり、本人の努力で容易に変わらない部分を含み、人事考課の対象とはしにくい。
問題特性 資質特性や行動特性のうち、とくに業務上支障としてしばしば観察される行動傾向。本人は自覚しないことも多いが、周囲には認識されやすい。 誰から見ても見えやすいので、評価の対象になりやすいが、期待水準を下回る現象として認識されるため、標準かそれ以上かを決める基準にはならない。

1997年から2002年に至るまでの数年間、日本の人事実務で注目を集めたコンピテンシーはここでいう行動特性に該当するものだが、その範囲や定義に統一見解はなく異論が多いこと、米国の産業・組織心理学もこれを実用概念と認めるとは言いがたいこと から、その名称を使っていない。コンピテンシーの人事評価実務上の問題は、それを整理しても、賞与や昇給という本来最も大きな人事考課の目的からすると、一部しか埋め合わせできないことで、一般に3-4割程度のウェイトしか置かれていない。もともと採用基準なので採用基準にはなりうるが、採用技法は別途に考えないといけない。昇格基準としてならそれなりに導入可能と思われる。これに対して、ポスト・コンピテンシー時代に注目されているのが資質特性である。資質確認の技法の歴史は古いが、資質確認のためのツールが重要な位置づけで取り扱われ出したのは比較的近年のことである。

資質特性はその人の中で比較的安定した特性である。ゆえに経年比較しても本来は大きく変わることがない。とりわけ代表的なものである気質は生理学的にも根拠があり、幼少期にある人物にも特徴的な部分であり、性格のコアといってもよい。しかし、気質以外の価値観や興味の対象、態度、欲求などは深層の部分では継続性を持っていたとしても、その人の置かれた環境、役割、そのときに所属する組織との関係や職務内容、業績などによって本人の持つ自己イメージは変化することがある。質問紙法という自己認知を確認する方法で測っている限り、自己イメージのずれが当然生じることはありうるだろう。

行動特性は本人も明確に意識しているわけではないが、周囲から見た時の本人の行動上の特徴である。例えば、説得力やコミュニケーション能力という特性は、その人の属する職場の特質や職務内容、期待レベルなどによってあるのかないのかはかなり違ってくる。これを普遍的に数値化することは困難である。比較対象となるグループによっても変わることから、行動特性は相対評価でしか語ることが困難な部分がある。

こうしたあいまいさを残す行動特性に対して明確に観察され、あまり異論なく認識されやすいのが問題特性である。それはある人を観察して誰もが異論なく問題と感じ、それを整理したのが問題特性だからである。問題のない人には発見しにくいが、問題のある人ならそこには2つか3つの重大な原因に帰着させられることが多い。この点は本誌にもキャリア・ディレールの問題として以前詳しく掲載したことがある。そこで今回は採用選考のツールとして有名なSPIにある採用面談する際のポイントとしての「19の視点」を提示している。これらは資質や行動のうち、問題として認識される主なものを列挙したものである。このような提示のされ方がされることは、行動特性が把握されにくいことを物語っている。

■SPI-2の示す「19の視点」
 
領域 視点
対人 対人面の繊細さ
対人面の消極性
周囲への配慮の不足
自己主張の強さ
自己主張の弱さ
対課題 理想と行動のギャップ
意欲のから回り
目標の低さ
フットワークの悪さ
行動の柔軟性の不足
慎重さの不足
ねばり強さの不足
注意や行動の散漫さ
共通 自信過剰
心配しすぎ
気分のむら
考えの浅さ
考えすぎ
思考の固さ
※HRRのHPより


能力開発はどこまで可能か?

個人特性を考えるとき、重要な論点に能力開発がある。この点につき、開発可能性という視点が重要である。職務行動を観察し、それを行動特性によって捉えることの重要性はそれによって開発可能かどうかを明らかにすることである。新人については仕事で必要となる職務知識やスキルの習得が能力開発で重要なプロセスになる。しかし、知識やスキルの習得は職務遂行の前提条件であり、取り立てて高く評価される事柄ではない。むしろ並程度になった瞬間から、その行動のレベルが問われる。例えば、リーダーシップはあるのか、対人関係はどうか、課題処理は的確かなどが焦点になってくる。産業界ではSEなどで顕著で専門知識やスキルはむしろ必須であり、前提条件となっている。むしろキーになるのは対人折衝やプロジェクト管理の能力だという。

また焦点になる行動が問題行動であるならそれは克服可能かどうかが問題になる。多かれ少なかれ人には問題があるだろう。重要なことはそれが許容範囲に行動修正されるかどうかである。行動修正が可能かどうかを考える際、その人物の行動をよく観察し、その問題や不足点がどこにあるのか、資質から見てどうか、行動特性的にはどうか、それらは伸ばせるのか、どこまで変われるのか、考えないといけない。

能力開発を否定しているわけではないが、従来あった無限に可能とイメージする考え方には異論がある。無限に成長の可能性があり、どんな人間にもなれるわけではない。その人なりにどこまで変われるのか、そこを見極めないといけない。身の丈に合った要求の中でキャリアを形成していくことは何より成功要因である。


人事考課はどこまで有効か?

人事考課は数ある人事評価における評価技法のうちの1つに過ぎない。職能要件を作り、目標管理シートやコンピテンシーモデルを提示しても、最後は直属上司の評価能力に関わってくる。1つの組織にはその従業員数の2割かそれ以上の数の一次評価者が必要となるから、評価能力のある上司を非常に多く作り出さないといけなくなる。しかし、これは難しいことである。ただ、この仕組みはマニュアルやシートを整備して配布さえすればいいので、実は手軽で運営コストもそう高いものではない。そのため、最も普及したやり方ではある。
人事考課では本来的に寛大化と中心化が生じやすく、それによって処遇のすべてを決めれば問題が生じてくる。そこで、補完し代替する仕組みを考えないといけなくなってくる。評価技法の特徴と問題点を表としてまとめたので、参考にしていただきたい。

■評価技法の特徴と問題点
評価技法 評価者 特徴と問題点
人事考課 上司 普段最も接している上司が行うため、客観性、公平性が期待される。しかし、狭い範囲での従業員評価であり、全社的な目配りでの評価にはならない。寛大化と中心化が生じやすい。
多面評価 上司を含む同僚 同僚は上司以上に本人と一緒に仕事する時間が長いこともあるので、本人にはその結果を否定しにくい。しかし、その評価は寛大化、中心化、極端化する傾向があり、信頼できない。調査に手間取ることも多い。
アセスメントセンター 専門的な第三者 グループ討議やロープレ、未決案件処理演習などを総合して本人の能力評定を行う。専門家が行うので、評価が正確でブレも少ない。しかし、実際の職務行動を予測するに過ぎず、業績評価には使えない。
アセスメントツール
質問紙法
ツール 職務行動を観察することなく、本人が20-40分の時間で回答したものを自動処理するので、客観性はある。しかし、職務行動自体は別個のもので、それによって処遇決定はできない。
行動インタビュー
採用面接
人事担当 応募者に対して実施される。面接に当たる人の好みなど統一基準で決まらないリスクはあるが、被評価者と親しくないので公平性はある。
行動インタビュー
過去の経験
上司以外の第三者 過去に実際にやったことについてインタビューするので、本人の業績評価として活用可能だが、評価基準に即した行動が未経験の場合、評価しにくい。また膨大な時間がかかる割に精度があまり高くない。
行動インタビュー
状況設定型
上司以外の第三者 架空の想定に対して対象者がどう答えるかでその人の思考や行動を見ようとする。構造化=標準化もしやすく、職務経験も要しない。しかし、架空のことなので、迫真性が問題になるし、業績評価には使えない。



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■思い込みが激しく勝手な判断をする部下

あなたは人事部採用教育課の課長です。採用教育課は新卒の採用及び新人を中心とした教育を行っています。もともと営業部門にいたあなたは4年前から採用教育を担当することになり、自らも新卒採用や、内定者及び新人の教育研修を担当しています。当社は中堅の医療機器メーカーとして順調に業績も伸ばしてきました。またあなたも今の仕事にはだいぶん慣れてきたところです。この数年、毎年50名ずつの新卒採用を行い、彼らもかなり当社の戦力として活躍しています。
ところで、あなたには3人の部下がいて、うち二人は新卒で入社し、この課に配属されてきました。彼ら(古宮純一、松村隆志-いずれも入社3年目の男性社員)はまだ仕事にやや不慣れな点もありますが、あなたの指示や命令を真摯に受け止めるので、あなたも仕事を頼みやすいと感じています。時々は細かく指示を出さないと徹底されない面はありますし、もう少し自立してほしいと考えていますが、おおむね問題はないと感じています。しかし、もう一人の部下である林田和美のことで悩んでいます。
林田は1年前、当社に移ってきました。もともと大手電機メーカーにいた林田は、採用業務の経験が豊富で、仕事も手早く処理していきます。自分なりの意見をはっきりと持ち、物怖じしないで事を進めていきます。しかしながら、林田は思い込みがやや激しく、時に独断専行に走ります。話し合っても事実の誤認が少なくなく、あなたは意思疎通に骨が折れることもしばしばです。どうも融通が利かず、物事を堅苦しく考える上、話の途中で自分なりの見解をはさんで脱線してしまうことも少なくありません。
内定者の研修に関して、あなたは林田と仕事をシェアしようと考えていました。そこで、大いに林田に仕事を任せていたのですが、段取りや進め方があなたのイメージとかなり違ったものになっていました。頼んだはずの資料も一部にはなく、頼みもしない資料が準備されていて、それは林田が自分なりに判断して手配したということでした。あなたとしては、内定者の教育にはこだわりがあり、このまま進めていく気にはなれません。しかも、このような勝手な判断は今回が最初ではないのです。
ところが、日時はかなり切迫しており、今更最初からやるには時間がほとんどありません。今日は木曜日で、研修は月曜日からになっています。できることなら、あなたは土日に出勤してでも何とかしたいと考えていますが、林田は土曜日に実家で法事があり、東京から山口県まで新幹線で帰るので、金曜は定時に退社したいと前々から予定を告げています。
あなたは林田と普段から感じていることを話し合おうとしています。

Q1.林田の行動のどこが問題ですか?

林田は、仕事に自信を持ち、自分のペースの中ではてきぱきと仕事を進めていきます。しかし、上司であるあなたの意向を踏まえて事を進めるとか、指示に従って対応していくのはどうも苦手というか、軽んじてしまうようです。今回の内定者研修に関してはあなたの指示や意向を少なからず無視して事を進めており、期日もほとんどなくどうしようもない状態になっています。

Q2.林田の資質特性や行動特性はどこが問題ですか?

林田は、その行動傾向から粘着気質の人物のようです。この性格を持つ人は、几帳面で厳格、粘り強いのですが、反面で融通が利かず、堅苦しく、周囲に対して無関心となりやすいといわれています。
性格特性のうち、気質は最も根源的な部分です。なので、林田が粘着気質であるならば、林田の融通の利かないところ(柔軟性の欠如)はなかなか修正できないと考えるべきでしょう。また林田はあなたの意見を取り込んで折衷して案を作るなどが苦手です。これも修正の難しいことかもしれません。しかし、このような気質の人は頑張り屋で、一度決めたことはとことんやり抜くところもあります。
一方、登場する上司の側も、細部にわたって部下の仕事を把握し、任せきれないなど癇症な面があり、いずれかというと、粘着気質の傾向が見られます。上司自身が細部にこだわるので、折り合いがつかなくなってしまうのです。
行動特性、これをコンピテンシーということもありますが。それには開発可能性があります。つまり、コンピテンシーごとに習得の容易なものとそうでないものがあるのです。柔軟性に関しては難しいという指摘もありますし、比較的容易ではないかという指摘もあります。私は比較的容易であると考えていますが、粘着気質の人にとって行動修正は非常に困難なことです。粘着気質の人は場に即して自分の思考や行動を調整するのは不得手です。つまり、柔軟性のない人に柔軟性を持てという要求は成功しないことが少なくないというのが通説的な理解なのです。とりわけ、本人の気質が関係しているとそうなります。
一方、権限委譲というコンピテンシーがありますが、これは比較的、習得が容易ということで異論がありません。そこで、考えられるのは、このケースのような場合、なるべく林田に権限委譲し、任せてみるというのもひとつのアプローチとなってきます。

Q3.今後、林田とどう接していけばいいですか?

今回の案件に関しては。土日になっても手直しするかはあなた自身のこだわりによります。少なくとも、事前に予定を告げていた林田にあれこれと手直しを命じることは困難かもしれません。
林田の仕事の品質にもよりますが、柔軟性が比較的克服が難しく、権限委譲が簡単なことなら、後者で問題解決を図ることが現実的です。権限委譲を図るのは上司であるあなたなので、今後は林田に任せられることは任せていくのが解決策ということになります。そこで、あなたの要求事項と異なるものがあれば、その点は話し合っていくしかないでしょう。
実は、この林田のようなタイプの人物を私は何人も知っています。その一人にサービス業の人事課長だった糸橋満夫(仮名)という人がいます。この人は、中堅企業だった時代から同社の幹部として活躍し、人事企画などで実績を上げてきましたが、周囲と意見をすり合わせたり、自分の考え方を相手に合わせて微調整することの全くできない人でした。しかし、努力家で、押し出しが強いので、脱サラし、起業して最終的には成功しました。最初は社会保険労務士をしたり、人事系のコンサルタントのような仕事をしましたが、傾聴姿勢がなく、裁量度の高い仕事に満足を覚える人を管理できずに失敗しました。しかし、その後、餃子やラーメンなどの飲食店を始め、こちらは盛況で、数店舗のフランチャイズをして成功しました。決められたことを粘り強くすることは得意だったのです。
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