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◆目標管理導入-成功のポイント |
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寄稿先:隔月刊看護部長通信
医療業界で注目される目標管理
医療業界で目標管理を導入する事例が急速に増えている。病院や施設という事業所の場合、量的に最も大きな職域が看護であり、看護職で目標管理をどう活用するか、関心が持たれている。しかし、先行する導入事例では問題が多く、今ひとつ機能していないともいわれている。そこで本稿では目標管理が機能せず失敗する原因と共に、実際に導入する場合のポイントを解説しておきたい。
1. 目標管理が機能しない原因
いわゆる産業界で目標管理が注目されたのはオイルショック後やバブル崩壊後、つまり不況の際である。不況で業績が悪化すると、どういうわけか組織を引き締める意味合いも込めて目標管理が取り沙汰されてきた。目標管理、こだわる人はこれを「目標による管理」 というのだが、どうも業績主義と財政悪化と密接に関連してきた制度といえる。そのため、運用の中でどれほど強調されるかは別にして、業績なりそれを実現する顧客サービスの向上、業務プロセスの改善をこの制度と分けて考えることは難しいだろう。
この数年、医療保険制度の改定で病院をはじめ、医療業界の収益はかなり悪化してきたし、先行きも決して明るくはない。身近に閉鎖する病院や診療所も増えてきているし、今後はさらに淘汰が進むといわれている。そんな背景も、目標管理が制度的なブームとなっていることと無縁ではないだろう。
目標管理は組織としての危機感の現われであり、人材面から業績向上を探る手立てと捉えることができる 。危機感は組織の環境適合のために必要だし、自然に発生してくるのだが、それが性急過ぎると時に無理が生じてしまう。目標管理が失敗する大きな原因はひとつにはこの性急さにある。
よくありがちな例で説明してみよう。ある企業が二期連続赤字になったとする。このまま来期も赤字になると、資金繰りなどいろいろなことで支障をきたすことになる。そんな時、経営者はありとあらゆる手立てを考えることになるだろう。できるだけ経費を節減するし、投資も抑える。あるいは資金調達も考えないといけなくなる。方々の銀行に頭を下げ、資金の手立てに汲々とする経営者が次に考えるのが人事改革である。中でも手っ取り早くて効果がすぐに出そうなのが目標管理だ。各自に成果目標を立てさせ、それを半期ごとに取り組ませる。それによって業績向上を狙うわけだ。
ただ、性急に成果を迫っても、その効果はあまり出ないこともある。というのは、仕事を任されている人の影響力が成果に対してそんなにはないことも少なくないからだ。経営者が実績表を手にしながら時にヒステリックに眉間にしわ寄せして「売上をすぐに作れ」と言いたくなる気持ちはわかる。しかし、売上は結果であり、そのための事業プランや仕組み作りは経営者が考えないといけない。にもかかわらず、経営責任を棚に上げて従業員に結果責任を追及するとどうなるか。モチベーションがすごく下がってしまうのである。目標管理が失敗することが多いのは、性急な結果志向が空回りし、組織の構成員、つまり従業員、職員に無力感が生じてしまうことにある。
またほかにも失敗する原因がある。一人一人が精一杯考えて設定した目標が仮に達成されてもそれによって組織全体としての目標が実現するわけではないことだ。病院の例で言えば、目標管理を通じて患者が来れば素晴らしい医療サービスが受けられる状態が実現されたとする。しかし、増患しないことには病院の経営は好転しない。逆に施設のよさなり病院の知名度などの要因で患者さえ集まっていれば、多少そのサービスに問題があってもその病院はどうにか回っていく。つまり、組織全体の課題を個人単位には切り分けられないし、個人ベースの課題をいくら実現しても組織全体の成果として結実するとは限らないのである。ここに目標管理の限界がある。
さらに話し合いの仕方にも問題がある。面談の相手方にとって耳当たりのいい話ならいいのだが、そうでない話し合いやフィードバックではどうだろうか。上述のように目標管理は経営側の危機感の現われから導入されることが多い。ゆえに、部下との話し合いの内容の多くはネガティブなものとならざるを得ない。曰く「業績が悪化したので賞与が下がってしまう」、「取り組んだ目標はいまだ達成できていない」。これならまだ事実なので致し方ないだろう。しかし、「何が何でも到達しないといけない成果基準からすると、取られている行動はあまりに不十分で期待に沿わない」。こうなってくると、責任転嫁とさえ映るかもしれない。このような目標をめぐる話し合いは面談制度として重視されるが、逆効果となっていることが少なくない。
コーエンとジェンキンズは、評価制度のあり方に関して目的ごとに別々のものを作って導入・運用すべきだとしている。つまり、本人の能力開発を親身に話し合うならそういう機会を設けるべきだし、賞与や昇給という査定に関して本人に伝えないといけないならそういう話し合いをすべきかもしれない。少なくとも何もかも合わせて実施するのはまずいというのである。この点につき、職能資格制度を推奨する楠田丘や野原茂をはじめとする人たちは、育成と評価と処遇をリンクさせた話し合いの重要性を強調している。面談はそれを行う管理者の腕の見せ所だが、1日や2日のトレーニングでフィードバック面談の技術が向上するものではない。
目標管理が業績評価として導入されるべきかどうかについては議論がある。目標管理の識者とされている奥野明子氏は、業績評価としてより「全体管理システム」として導入すべきだとしている。しかし、産業界の実態はとりもなおさず業績評価の仕組みとして目標管理を位置付けているし、米国でも業績評価の手法として普及したもののようだ。むしろ業績評価の役割なくして目標管理の居場所がないほどなのである。目標管理と類似したもので、方針管理というのもあるが、これは通常、個人単位にまであまり落とすことを重視しない手法である。方針管理と目標管理は本来、ルーツも全く異なり、配布されるシートは似通っているが、方針管理には個人の業績評価という側面はほとんどない。
業績評価として目標管理がどうなるかというと、達成率で業績を評価することになるが、達成基準を公平に設定することは難しい。そのため、米国では目標管理で業績評価を行う実務が80年代には廃れてしまったという。日本でも達成率を業績ではないとする制度改定が多くなされていて、業績評価の参考にするという位置づけが一般的だと思われる。達成率を評価基準にすると、それによって評価段階を確定することは難しくなることが多く、バーの高さをめぐる不毛の攻防が起こってしまうこともある。これでは上司の示す「期待し要求する水準」がどこにあるかはっきりせず、被評価者にとって理解されにくいという問題を生じてしまう。
2. 目標管理を成功させるポイント
目標管理の導入や運用はそう簡単にいかないことが多いことを述べた。では、一旦やると決めてしまったら、具体的に何をどうすればいいのか。あるいはこれからやるという場合、どんな制度作りをすればいいのか。
米国で比較的新しい組織行動論や産業・組織心理学では目標管理をどう扱っているかというと、ほとんど採り上げられていないのが実情である。ただし、目標設定によるモチベーション向上は必須のトピックスになっている。つまり、モチベーション向上という視点なくして目標管理を語ることは無意味ということである。
実はこの視点は非常に大切であり、ネガティブ・フィードバックの必要性を強調するあまり、モチベーションが犠牲にされるなら、そのような話し合いはしないほうがましである。もしモチベーションが向上するなら話し合いの機会をぜひとも増やすべきなのである。それだけで目標管理は半ば成功したといえるかもしれない。処遇決定をちらつかせて部下に目標を設定させたり、その進捗をめぐって不安を増長させる運用をしても業績は好転するどころか、むしろ悪化し、職場の空気はギクシャクしてしまう。話し合うなら、上司や会社組織がどこまで協力・支援できるかを提示して建設的に話し合い、組織との一体感や明日への希望を抱かせるように仕向けるべきだろう。そのために上司と部下が同じ高さの目線で業務課題の解決や本人のキャリア・アップを親身に見つめ、話し合うべきである。
方針管理はQC活動から派生した手法で、日本企業、とりわけ製造現場では発達してきた課題解決の手法である。結果志向の目標管理には問題も多い。むしろ方針管理を基本にしたフレームで目標管理を実践すべきであり、そこにBSCの考え方を織り込めばなお一層効果的だと思われる。できることなら、本人が自発的に意欲的に働ける空気が上司と部下との話し合いによって強化されると望ましいだろう。医療業界で目標管理がよく議論されているが、その運用状況を見ると、方針管理の考え方を基調にした戦略・方針の展開や落とし込みが重視されたものになっているように思われる。
競争環境のますます激化する医療業界では、看護職のサービス向上、そのための能力開発も大きな関心事となってきている。このような能力開発への支援は仕事のプロセスや本人の強み・弱みをしっかりと把握することで可能になるもので、結果重視の業績評価とは本来相容れない。強みや弱みを記述する共通言語としては行動特性を考慮することも役立つことがある。行動上の優れた点は多いに称賛し、本人のやる気を引き出し、一方で問題となる行動に関しては適宜注意を喚起し、代替する行動を取らせるように指導していくことが望まれるだろう。
目標管理と銘打つ書物も多く、情報はむしろ過多なほどである。そこで、自組織ではどうするのか、どう位置付けるのかをしっかりと考え、導入や運用で問題が生じたら適宜軌道修正をするなど、自社なりのよりよい目標管理の運用方法を目指すべきだと思う 。そのために、外部のアドバイザーを活用することもひとつの方法である。
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