株式会社JEXS
 ◆キャリア・ディレールを防ぐ人材マネジメント戦略 ~コンピテンシーを補完する概念 ディレールメント~

寄稿先:隔月刊看護部長通信



キャリア・ディレールとは何か

中島敦に『山月記』という小説がある。主人公の李徴(りちょう)は、「博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところすこぶる厚く、賎吏に甘んずるを潔しとしなかった」が、結果的には詩作に励み、やがて生活に苦しんだ果てに発狂して虎になってしまった。李徴は、溢れるような才能を活かしきれず、一介の虎になってしまったのである。

優秀な人材が実際の職務において成功するとは限らない。そのことは我々が日常的に気づいているところである。一般に「知的な能力が高い人はしっかりと自己認知もできる」と考えられており、それによって自分の行動を適宜振り返り、良識と節度のある行動/態度を形成していくと考えられてきた。第一次世界大戦の頃、米国では徴兵の際、いわゆるIQテストが開発実施されたが、これは兵士の配属に役立ったという。つまり、IQが高いか低いかによって、配属先を決めると、非常に少ない手間隙で効果的な配属決定が成功したのである。今日でもなお、知的な能力は職務成功に寄与することが人材適性観の基調となっているようだ。さらに、そのプロセスには自己認知に関する能力が関わっていると「常識」的に考えられている。

ところが、これは今日の時代背景の変化なのか、ゴールマン(Daniel Goleman)のEQ概念など異なる見方が提示されてきた。つまり、IQの非常に高い人は職務成功を遂げておらず、平均かやや高い人が着実な職務成功を勝ち得ているというのである(Daniel Goleman "Working with Emotional Intelligence" 2000)。このような知見はもともとマクレランドのコンピテンシー研究に由来するもので、活躍する外務情報員の成功要因を特性列挙すると、一般知能ではなく、対人感受性であることが明らかにされていた(David C. McClelland "Testing for competence rather than intelligence " American Psychologist 28 1-14 1973 )。

ただ、EQ(emotional intelligence)のようにIQ以外のものすべてが重要だとしても、それによって個人特性と業績発揮行動との因果関係が明確化されたわけではなく、EQというコンセプト自体は下記に示す通り、網羅的であり茫洋としたものといわざるを得ない。知的な能力が職務成功に寄与するという基本テーゼを否定することはジャーナリスティックな意味を持つかもしれない。しかし、EQはIQ批判の単なるアンチテーゼに過ぎず、概念設定自体に無理がある。そこで、職務成功を阻む要因の因果連関について再考しないといけなくなってくる。

■ゴールマンの「感情コンピテンス(emotional competence)」

◆モチベーション
- 達成意欲
- コミットメント
- 率先行動
- 楽観的見通し
◆共感性
- 他者理解
- 他者の育成開発
- サービス重視
- 多様性活用
- 組織内政治の理解
◆社会的スキル
- 影響を及ぼす
- コミュニケーション
- 対立葛藤処理
- 対人的リーダーシップ
- 変革の触媒
- 連帯の構築
- 協調と協力
- チーム志向

職務キャリアで成功すると予測されるに足る十分な資質特性を兼ね備えた人材をハイポテンシャル人材ということができよう。ハイポテンシャル人材、つまり高資質人材のすべてが職務キャリア上成功するわけではないとすると、いくつかの仮説が成り立つだろう。つまり、「成功しなかった人材はそもそもハイポテンシャル度合いが低かった」(仮説1)という一次元的な発想である。こう考えると、ハイポテンシャル度合いのより高い人材を獲得するように探すことになるだろう。これに対して、「ハイポテンシャル人材というだけではハイパフォーマーになりえない」(仮説2)としてハイポテンシャル度合いで説明しきれない要因を別途に考えるという二次元的な発想がある。こちらのアプローチのほうが現実的であろう。このアプローチの一環としてディレールメントが最近、注目されるようになってきた。

《資質-リテラシー-業績の連関性》
ハイポテンシャル人材  ⇒         ハイタレント      ⇒         ハイパフォーマー
     (高資質人材)        (成果リテラシーある人材)    (高業績者/成果を実現した人材)

                                                                    ディレールメント
                                                                  (キャリア阻害要因)

ディレールメント(derailment)とは、レールを外れることであり、直訳すると、脱落脱線を意味している。職務キャリア上のレールを外れることは、キャリア・ディレール(Career Derail)ということができよう。この考え方は、80年代にCCL(Center for Creative Leadership 米国における代表的なリーダーシップ訓練の機関)というトレーニング団体で研究されたものである。その研究の中心的な存在だったロンバード(Michael Lombardo)は、「成功が失敗の原因となる」ディレールメントをリーダーシップ開発の重要なモデルと考えた(Michael Lombardo "Preventing Derailment: What to Do Before It's Too Late " 1989 Morgan McCall and Michael Lombardo "Off the Track: Why and How Successful Executives Get Derailed" 1983)。つまり、①強みが弱みになる、②見えなかった部分が状況の変化で問題になる、③成功によって傲慢になる、④実力があっても不運によって脱線する、などのことが指摘されている。強みであるはずの特性にはダークサイドがあり、例えば、チームプレイヤーにはリスクを冒さないという優柔不断な側面があるという。ディレールメントには具体的にはどんなものがあるのか、次のようなものが示されている。

■個人特性として示されたディレールメント
  1.多様性に対する柔軟な対応力の欠如/組織順応性の欠如
  2.業務管理能力の欠如/詰めの甘さ
  3.行き過ぎた野心性/自己中心的な出世志向
  4.傲慢/独善性/自分本位
  5.裏切り/言行の不一致
  6.学習力や行動改善力の欠如
  7.ヒステリー/行動安定性の欠如
  8.過剰な自己防衛
  9.倫理観・ヒューマニティの欠如
10.自分本位な業務遂行パターンやチーム志向の欠如
11.人的マネジメント能力や人事評価力の欠如
12.対人感受性の欠如
13.業務関連スキルの欠如
14.戦略・ビジョンの欠如
15.過剰な依存性や自律性の欠如
16.ワンパターンの攻め/単一の強みや長所への依存
17.行き過ぎた干渉主義/自滅的なマネジメント
18.的外れ/ピントずれ/相手のニーズにうまくフォーカスできないセンスのなさ
19.組織感受性の欠如/機密や言動への配慮の欠如
※米国Lominger社作成の『出世の障害・行き詰まりにつながる19の要因("For Your Improvement A Development and Coaching Guide" Lominger Limited Inc 2002)』より意訳翻案

マッコールは、『ハイフライヤー』などの著作で、サクセッション・マネジメントのモデルとしてこのディレールメントをキー概念とした。つまり、次世代リーダーの育成に当たって、ディレールさせないことが必要で、そのための試練や経験を計画的に積ませることが人材育成上、求められるとした。


コンピテンシーとの相補性

人材マネジメントにおいてコンピテンシーが注目されている。これは、高業績者の行動特性のことだと言われているが、もともと「有能さ」を意味しており、何らかの職務を設定した際の適合度合い、つまり任用適合度のことだと考えてよい。コンピテンシーには限界論や批判も多いが、特定の職務を想定し、それに対するに適性と捉えるなら、人事システムとしてはそれなりの活用価値は持っていると考える。つまり、期待基準としての行動指針を明示し、それによって方向性を示すということである。

コンピテンシーは、ハイパフォーマー/高業績者の特性のことであるが、ハイポテンシャル人材の特性のことでもある。作成段階ではハイパフォーマーの行動分析から情報収集しモデル化がなされるが、モデル化されても、それは職務成功を直ちに意味するとは限らない。このことからも、コンピテンシー・モデル自体はハイポテンシャルの項目指標に過ぎないということになる。

ハイポテンシャル人材が必ずしも職務成功しないことは述べた通りである。とするならば、コンピテンシーも成功を保証するわけではなく、あくまでも成功の確度を高くするものに過ぎない。そこで、別途に成功するはずの人材が阻まれてしまう障害要因を考えなくてはならなくなる。ひとつにはコンピテンシーの低さに起因する特性もあるだろう。しかし、なるべく低さ加減からは説明のつかない要因を抽出していくと、それが「真性ディレールメント」になるだろう。そして、次のような図式を想定することができる。

 ハイポテンシャル人材の特性(≒コンピテンシー) → 職務成功or職務失敗 
                                                                    ↑
                                                            ディレールメント


コンピテンシーだけではなく、ディレールメントを合わせて考えることで、よりいっそう、職務キャリア上の成功/失敗を説明することができる。つまり、両者は相補的な関係にある。このような二本立てのモデル化は今日、米国でも一般的にしつつある。例えば、米国で代表的なアセスメント機関であるDDI社(Development Dimension International Inc. アセスメント研究のリーダー的存在であるバイアムをチェアマンとする団体で、フィラデルフィアに本拠地を置く。)は、アセスメント基準として、コンピテンシーと共に、エグゼクティブ・ディレーラーを示している(William Byham et al "Grow Your Own Leaders: How to Identify, Develop, and Retain Leadership Talent" 2000)。これはまさしく相補的な二次元モデルである。


■コンピテンシー Competencies

   対人スキル Interpersonal Skills
   ◆戦略的関係構築 Building Strategic Relationships
   ◆信頼構築 Building Trust
   ◆インパクト・コミュニケーション Communication with Impact
   ◆文化的対人有効性 Cultural Interpersonal Effectiveness
   ◆顧客志向 Customer Orientation
   ◆説得力 Persuasiveness/Sales Ability

   リーダーシップ Leadership Skills
   ◆チェンジリーダーシップ Change Leadership
   ◆コーチング/ティーチング Coaching/Teaching
   ◆権限委譲 Delegation
   ◆人材育成 Developing Organizational Talent
   ◆エンパワーメント Empowerment
   ◆ビジョンセリング Selling the Vision
   ◆チームリーダーシップ Team Development/Team Leadership

   ビジネス/マネジメント・スキル Business or Management Skills
   ◆成果志向 Drive for Results
   ◆実利志向 Economic Orientation
   ◆戦略的ディレクション Establishing Strategic Direction
   ◆グローバルな手腕 Global Acumen
   ◆ジョブ・マネジメント Managing the Job
   ◆マーケット志向 Marketing and Entrepreneurial Insight
   ◆リソース動員 Mobilizing Resources
   ◆意思決定 Operational Decision Making

   個人特性 Personal Attributes
   ◆自己洞察 Accurate Self-Insight
   ◆適応力 Adaptability
   ◆エネルギー Energy
   ◆経営者気質 Executive Dispassion
   ◆知的才能 Intellectual Capacity
   ◆学習志向 Learning Orientation
   ◆モチベーション Motivation Fit
   ◆ポジティブ気質 Positive Disposition
   ◆環境把握 Reading the Environment
   ◆回復力 Resilience
   ◆技術的/職業的知識技能 Technical/Professional Knowledge and Skills

■エグゼクティブ・ディレーラー Exective-Derailer 
   1. 人への無関心 Aloof
   2. 傲慢 Arrogant
   3. 用心深過ぎる Cautious
   4. 依存的 Dependent
   5. 疑い深さ/過剰な猜疑心 Distrustful 
   6. エキセントリック/風変わりさ Eccentric 
   7. 曖昧さへの耐性の低さ Low Tolerance for Ambiguity 
   8. メロドラマ的 Melodramatic 
   9. 人を平気で傷つける残忍さ Mischievous 
  10. 受動攻撃的  Passive Aggressive 
  11. 完全主義 Perfectionist 
  12. 気まぐれ Volatile 


欧米におけるディレールメントの先行研究

ディレールメントは、ハイポテンシャル人材がキャリア上成功せず、不本意ながら失敗していくプロセスを雄弁に説明する人材開発上のモデルと捉えることができる。ディレールメントへの着目は、ホーガンのリーダーシップの失敗(unsuccessful leader)に関する研究(Hogan, R, Curphy, G.J., &Hogan, J. (1994,June) "What we know about leadership: Effectiveness and personality " American Psychologist, 49(6), 493-504)にその原初形態を見ることができる。ここでは、いくつかの要因が指摘されている。

1. 訓練不足:リーダーにふさわしい訓練を受けていないので、リーダーとしての役割認識が不足している。
2. 認知的な欠陥:経験から学ぶことがなく、戦略的に考えることができない。
3. パーソナリティ:不安傾向が強く、いくつかの障害要因を抱えている。パラノイア(妄想性)、受動攻撃性、気分変調(躁鬱)、自己愛性などの性向が強い。

妄想性ないし受動攻撃性のあるリーダーは、表面的には部下を助け、やり手である。しかし、同時に部下に対するねたみも強く、隙を見て背後から突き刺すようなことも平気でしてしまう。また親和性が高く、とにかく人から強く好かれたい人材は、業績にはあまり関心を示さず、八方美人に振舞うので、たいした仕事もしないのに辞めさせられることもない。自己愛の強いリーダーは、自信過剰で、常に注目の的でないと気がすまず、何よりも自分自身の成功だけを追求し、失敗に関して非難を受けることを避けようとする。ホーガンの着目した失敗するリーダーの問題は、経験不足などの要因から来る自覚の欠如もあるが、むしろパーソナリティに関してDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersとは、米国精神医学協会の診断マニュアル。現在は第4版であることから、DSM-Ⅳと呼ばれる。)の示す主な人格障害が関係している。

ホーガンに類似した視点は、ブリースのリーダーシップ論にも見ることができる。リーダーが失敗するパターンが次のように分類されている。ブリースにおいてはトップエグゼクティブやリーダーのダークサイドな行動が格調高い筆致で描かれていて興味深いが、網羅性にやや欠け、ロンバードの分類にほぼ包含される内容の列挙に留まっているように思う。

①葛藤回避/逃避性:対立状況や困難な課題を避けて逃げ腰になること
②専制暴虐性:下位者・部下に対して横暴なこと
③マイクロ・マネジメント過重管理/細部へのこだわり:本質や重要度を考慮しない管理や権限委譲しないこと
④躁的行動:鬱の反対で気分が高揚し、抑えの利かない行動に走ること
⑤高慢孤高性/近寄りがたさ:時に高慢で、部下や下位者を歯牙にかけないこと
⑥主人公願望:自分本位で、まるでドラマの主人公みたいに思い込んでいて自己中心的に振るまい、周囲に癒しを与える脇役であることを求めること
⑦転移:気分に左右され、不機嫌さを晴らすために、部下や下位者に八つ当たりすること、脈絡もなく相手を見つけて怒鳴りつけたり、激昂したりすること

フランケルは、ハイポテンシャル人材の30-50%が期待される活躍をしないままキャリア上の軌道を外れるという調査結果があるとし、ディレールメントが起こるのはキャリアに関して勢いのあるときであると指摘している(Lois P. Frankel "Overcoming Your Strengths: 8 Reasons Why Successful People Derail and How to Get Back on Track" 1997 )。昇進、抜擢を受けたり、急な昇給やボーナスなどをもらった際に、取り立てて理由もないのに先を行くような認知を受けると自分自身を見誤ってしまうとしている。ディレールメント、キャリア上の躓き、キャリア・スタグネーション(career stagnationキャリア停滞)について8つの理由を示している。フランケルの示した8つの理由はありきたりのものであるが、その背景が幼児体験などにあり、コーチングやカウンセリングで緩和され解消されるとして解説したところに意義があると思われる。

1. 対人関係能力が稚拙なこと
2. チームの一員として働けないこと
3. コミュニケーションが稚拙なこと
4. 周囲に与える影響についての感受性がないこと
5. 上司とうまく折り合えないこと
6. 視野が狭すぎること、あるいは視野があまりに広いこと
7. 顧客のニーズに関心を向けられないこと/やれますという態度を示せないこと
8. 孤立してしまい、ネットワークが築けないこと


ディレールメント・インベントリー(抜粋)
   出典:Frankel"Overcoming Your Strengths"より筆者が独自に翻訳した。

番号 回答 質 問 文
1    よく人から私はお人よしだと言われる。
2    私は、独立して仕事をするよりもチームの一員として仕事することを好む。
3    周囲は私のアイデアや意見に注目し、それをその後、活用・実践している。
4    私は、いつも平静で、情緒が安定していると思う。
5    合理的な理由があれば、自分のやり方と異なる見解を表明することは問題にしない。
6    プロジェクトで仕事すると、つい没頭し、方向付けや自分なりのアプローチ方法を再評価する。
7    私は、最初にある障害を克服することをチャレンジングだと思う。
8    毎週少しでも仲間うちで関係作りをする時間を過ごしている。
9    私は、毎日少しでも同僚と話し込む。
10    私にとっては、チームで協働的に働くのは楽しい。
11    何を言うかだけではなく、どのように言うのかは同じくらい重要なことだと思う。
12    攻撃的/受動的ということと、アサーティブということの区別をつけているし、職場ではその点うまくやっている。
13    会社にとって好ましくない決定を下す人を見つけたら、自分の意見を述べる。
14    上司が口出しして自分とは違うやり方を強いても気にならない。
15    周りに奉仕することは個人的に報われることになると思っている。
16    私は専門的な機関・団体に属しており、定期的にメンバーと知り合うように会合に出ている。
17    ほとんどの同僚について、プロとしての見地から理解している。
18    プロジェクトでの私の個人的な貢献は、周囲からのインプットを確実にし強化することだ。
19    なるべくコメントが格好よくなるように、話をする前に考えるようにする。
20    周囲から私は、きちんとした意見をもっていて、しかも周囲の意見にしっかりと耳を傾けると言われる。
21    周囲から私は自律的に経営上の意思決定を評価していて適宜代替案を示すことができると評価されている。
22    私は、周囲から将来についてのビジョンを持っているといわれる。
23    リクエストに対して「できません」とは滅多に言わない。
24    毎月数回、私のチーム/所属組織の中心人物にランチに誘われる。
25    周囲との関係が良好なので、周囲が失敗するときでも私はしばしばうまくいくことがある。
26    見方や見解の異なった人と一緒に仕事をするのは楽しい。
27    自分の仕事着は自分で買うし、自分に合うようなものを選んでいる。
28    駆け引きは私の一番の強みである。
29    経営層から意見を求められるとき、私は腹蔵なく話すものと思われている。
30    仕事をやり遂げるだけではなく、新しい創造的なやり方を見つけ出すことも大事だ。
31    私は自分の組織にどうやって付加価値をもたらすかを意識的に考えている。
32    会社のうわさをするときは少しでもいいように言うようにしている。
33    誰からも好かれたいというような無理な要求はしない。
34    誰かとブレーンストーミングすることでアイデアを交換すると、元気付けられる。
35    人からよく私は、なかなか評判の話し手であるといわれる。
36    メッセージが好ましいと思わないときは、めったに送らないことにしている。
37    ご機嫌をとるために上司をなだめることよりも率直であることの方が重要だと思う。
38    時間通りということは正確に仕事するということは同じように私にとって重要である。
39    私が仕事を楽しんでいる証拠に陽気な(upbeat)態度で仕事するということがある。
40    私は、社内の他部署または社外にポジションの近い仲間がいて仕事に関連したところで意見を交換する。

 
  
ピープルスキル
チームワーク コミュニケーション 感受性 職権遵守 ビジョン形成 顧客志向 ネットワーキング
1 2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31 32
33 34 35 36 37 38 39 40
項目計                        
全体計      
               1=非常によく当たっている  2=当たっている  3=いずれかといえば当たっている  4=当たっていない


ウォルドループとバトラーは、優秀な人材の95%が行動上の悪癖を持ち、その効果的な指導によって組織行動を是正し、ハイポテンシャル人材が本来の能力を発揮できると指摘する(James Waldroop, Ph.D. and Timothy Butler, Ph.D. "The 12 Bad Habits That Hold Good People Back: Overcoming the Behavior Patterns That Keep You from Getting Ahead" 2001
『一緒に仕事をしたくない「あの人」の心理分析』(飛鳥新社)で翻訳されている。)。ここでも、有能さを引き伸ばすことよりも、もともとの能力を生かしきる、あるいはパフォーマンスを阻害する要因をコーチングなどで取り除くという視点が示されている。

■12の悪癖
   1. いつまでも飽き足らない
   2. 白と黒でモノを見られない/あいまいさを許せない
   3. やりすぎてしまう
   4. ともかく葛藤を避ける
   5. 身勝手に突っ走る
   6. 理由をつけては反抗的な見方をする
   7. いつも入り口を行き来する
   8. 悲観的で心配性になる
   9. 感情的に盲目/無反応である
  10. 何もしたがらない
  11. 境界の感覚がない
  12. 道に迷う

ハイアットとゴトリーブは、有能な人材が失敗する事例を示し、成功への手掛かりをつかむすべを指摘している(Hyatt, Carol and Linda Gottlieb "When Smart People Fail : Rebuilding Yourself for Success" 1993)。誰にでも訪れることのあるキャリア失敗は、肉親との死別以上に辛いことだが、再起を期すには重大な転機でもある。失敗には共通する理由があり、運の悪さや、年齢/性別による差別などもあるが、コミットメントやマネジメントの欠如、環境/価値観/同僚とのミスマッチなどがその要因としてある。対人スキルの欠如では、「社会的知性」の必要性が指摘されている。

■ 社会的知性
   1. 周囲に対する感受性
   2. 言外にある背景に対する察知力
   3. 批判/あら捜しをうまくやり取りする力
   4. 情緒の安定性
   5. チームサポート構築力

ディレールメントに関連するものとして、カーバーとシャイアの研究がある。それによると、ディレールメントと関連するのは自己制御(self-regulation)の失敗であることが指摘されている(Charles S. Carver and Michael F. Scheier『On the Self-Regulation of Behavior』(2001))。

自己制御の失敗は、①基準、②モニタリング、③力量の3つがキーになる。基準の中に規範や価値が含まれている。この中でも、モニタリングはキーとなる機能で、モニタリングは、しばしば組織内で権能/権限を持つと例外的に適用されなくなることがある。ある意味で、組織内でモニタリング機能が弱まったとき、あるいは規範の中で、不適応行動が強化されたときに、ディレールメントが発生しやすくなるのではないかと考えることができる。つまり、自分は例外であるという自己認識が行き過ぎた過剰な行動を誘発することになる。欧米でも研究は進んでいるが、今後、ディレールメントに関する研究が日本でも進むと考えられる。


人事システムとしてどう運用するか

キャリア・ディレールを防ぐ人材マネジメントが人材育成モデルとして脚光を浴びてきていることは述べてきた通りである。それでは、具体的な人事システムとしてどう具体化していくことができるのか。

人事システムというと、職能資格制度をイメージする人が多い。それは賃金決定を中心に据えた仕組みで、評価、育成、処遇を相互に連動させていくものとして多くの企業に普及している。もし年功的に処遇決定され、きちんとした人事処遇システムがないならその整備も必要かもしれない。しかし、キャリア・ディレールに関してはこのような処遇決定システムにリンクさせないほうがうまく機能することがしばしば指摘されている。キャリア・ディレールする可能性のある人材は基本的にハイポテンシャル/ハイパフォーマーであり、組織内でも相応の地位を得て、職務上も高い成果を出しており、彼らに対するネガティブな評価は処遇と結びつく仕組みでは率直に出てこない恐れがあることがその理由である。

ディレーラーの上司は、トータルでは高い成果を出す部下に少々の問題があってもフィードバックを避けることが少なくないし、ディレーラー自身の立ち回りのよさから問題行動に気づかないこともある。あるいは気づいて適宜フィードバックしていても、ディレーラーの弁解がましさから聞きつけてもらえないこともあるだろう。

筆者もこれまでたくさんのディレーラーを身近に見てきた。彼らに共通するのは、気づきの低さであり、周囲や他者からのフィードバックに対する自己防衛性の高さである。親身なフィードバックであっても、自己に対する指摘には攻撃的となり、むきになって逆に食ってかかってくることが少なくない。ディレーラーにもいろいろなタイプがあるが、話が通じると思って普通に話し合うことが徒労に終わることが多く、アプローチを変えないといけないだろう。

ディレーラーへのフィードバックは、単に話し合いの場を持ち、親身に話しても、あるいは強い語調で諭してもほとんど効果がないことが多い。彼らが納得するのは基本的に困難であるが、ひとつの有効なフィードバック方法に360°フィードバックがある。これは、直属上司だけではなく、同僚や部下などの評価をなるべく客観的に行ない、本人に示す仕組みである。

近年、職場におけるいじめが問題になってきている。これはもちろん、上に立つ者の荒廃した心理が問題である。しかし、いじめや暴力的な態度が何ら問題にされないことも原因や背景のひとつである。いじめやパワハラ的な態度は組織のパフォーマンスを低下させてしまう問題行動であるが、それには何らかの対処法が整備されなくてはならない。収益拡大やコスト削減のみを見つめる結果、働きやすい組織の環境整備が見失われているように思われる。職務や組織への満足度合いの高いところには自然と優秀な人材が定着し、意欲的に活躍することを忘れてはならないだろう。

病院や施設は、しばしば軍隊型の組織であるといわれる。生死に関わる医療に携わっているので、失敗やミスが許されないという強迫観念がそういう風土をもたらすのかもしれない。しかし、強い指示命令の関係が必ずしも高い成果に結びつくわけではない。職場に対する満足度が高く、気持ちの上で落ち着いて執務できるとき、仕事の能率も改善される。このことを見失ってはならない。
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